ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年11月07日(金)
とうとうほんとうのわたしをわかってもらうことができました
 都内の通所施設でのできごと。
 ☆☆さんは、自分で何とか車いすをこいで、ゆっくりと短い距離ならできる方だ。短い言葉も話している。まったく表現手段を持たないと思われていた人の言葉を援助するということが多いため、こんなふうに話せる人は、あえて、パソコンでなくても、十分に気持ちを表現できているかもしれないと、つい思ってしまうことがある。しかし、実は、話すことも運動の一つである以上、障害は、発語にもおよび、思っていることの何分の一しか話せていないということが起こっているということも、最近、ようやくわかってきたことの一つだ。そして、☆☆さんもまさしく、そうした方の一人だった。
 別のもっと障害の重いとされる方がパソコンをやっているのを遠巻きに見ておられたので、一区切りがついたところで、誘ってみた。はっきりとうなづいて、やる意志を表現した。
 スライドスイッチの棒を握って、こちらがオンオフを軽く繰り返しながら、ほんのわずかな力が加わることによって選択の意志を読み取るという方法で、さっそく、2スイッチワープロを始めた。
 まず、彼女は、手を使って文章を書ける喜びを語った。

のぞみねがっていました てをつかえるようになることを
てがつかえてうれしい
よくやれるとおもっていましたがきかいがありませんでした
ぶんしょうがかけるとはおもいませんでした

 次に、私への質問が続く。

どうしてわたしがこんなにできることがわかったのですか

 私は、いかに私がわからない人間であったかということ、そして、たくさんの障害の重いとされる方々によって、その間違った考えを打ち破られてきたこと。今だって、会ってすぐにこの人はこういうことができているから文字も綴れるというようなことがわかるわけではなく、これまでのそういう経緯から、可能性を信じていきなり文字に挑戦しているということを伝えた。
 
よくりかいしてくれてありがとうございます
のぞんでいたことがかなってとてもうれしいです
ふしぎですじぶんのきもちをすらすらかけるとはおもいませんでした

 そして、この方法について質問や感想が語られる。

どうしてじぶんのきもちがよみとれるのですか
じぶんでかいているようなきがしません
すばらしいほうほうですね

 彼女にとって、運動は、大変な努力の結果起こるもので、しかも、起こったその運動は、力が入りすぎ、しかも、とても制限されたものだった。しかし、このワープロでは、ただ、運動を起こすために身構えるだけで、スイッチがその力を拾えるので、不思議な気持ちになったらしい。
 ついで、私への質問が続く。

せんせいはどこでおしえているのですか
どうして×××にきたのですか

 ここで、いろいろ感じてきたことを書くように勧めたところ、内容は、いっそうシリアスなものになっていった。

くるしみからかいほうされました
かなしかったのはいつもちえおくれといわれてきたことです
だれもわたしのちからをしんじてくれませんでした
ぶんしょうだってかけるのにむずかしいことだってかんがえているのにことばがまともにしゃべれることもりかいしてもらえませんでした
でもとうとうほんとうのわたしをわかってもらうことができました
よくりかいしてくれてありがとうございます
ぶんしょうをかけることがわかってもらえてうれしいです
りそうはじぶんひとりでできるようになることです

 ここで、突然だったが、自分で計算の問題を作って解いてみてほしいと尋ねた。テストをするつもりはなかったが、数の面でも、いろいろなことがわかっていることを明らかにしておいた方がよいと考えたからだ。すると、次のような式と答えと感想が書かれた。

333÷3=111
どうしてすうがくがわかることをしっていたのですか

 最後に、次のような言葉をいただいて、文章は終わった。

これからもよろしくおねがいします
よかったらまたいっしょにかいてくださいおねがいします

 私たちは、取り返しのつかないことをしてきたのだとつくづく思う。障害のある方々のことを十分わかった上で、「理解のない」社会に向かってともに訴えていくというようなおごった見方や、この人はこういう段階の方だからそれをふまえて関わるといいつつ結局は、相手の本当の力を見抜けず、相手の尊厳をふみにじるようなことをしてきたということだ。
 また、彼女からぎりぎりのところからの言葉を聞きたいと思う。   

2008年11月7日 23時42分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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