ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年11月11日(火)
きっとくるしみのいみを みつけてみせる
 都内のある学校で、K君と出会った。K君は中学1年の夏、不慮の事故で全身の自由を失った。現在彼は中学2年生、事故から1年と少し経過した。最初は植物状態とも言われた彼に、早くから学校の先生方が関わり、様々なサインやパソコンを通じて、彼の気持ちをくみとることができるようになっていた。
 初めての関わり合いではあったが、すでに先生方の実践もあり、彼に文章を綴る力が残されていることに疑いをはさむ余地はなかったので、さっそく、ワープロに挑戦した。
 まず、スイッチの方法について感想がさらりと次のように述べられた。

うれしい いいほうほうですね うそみたいです
このすいっちいくらですか ください

 そこで、今、思っていることを書いてほしいとお願いしたところ、おかれた状況をめぐる厳しい文章が綴られた。以下、漢字をまじえて紹介したい。

この鬱々とした状態、いつまで続くのだろう
苦難の試練を越えてこの世界の中で健闘してゆくのはむずかしい
大きくなるまでに体が動くようになるのか心配です
いつまで続くのだろうこの苦しみは

 中1で突然体の自由と表現とを奪われるという想像を絶するような状況の中で感じている苦しみを彼は率直に表現した。おそらく、うそいつわりのない、感情の吐露である。だが、これは、いわば、独り言のようなもので、明確に誰かに向かって発せられたものではない。たとえば横で見つめておられるおかあさんに対する表現としてならば、また、ちがったニュアンスが綴られるのではないかと考え、そのように提案した。以下はそれを受けた文章である。

おかあさんいつもありがとう
この状態になってもかわいがってくれてうれしいです
できるならこの状態から抜け出してもとの体に戻りたいけどとてもむずかしいようなのでこの状態でがんばっていきたいのでよろしくお願いします
この状態でもきっとしあわせは見つかると思います
苦しいことだけ考えていてもしかたないから楽しいことを考えていきたい
うちの中が明るいので救われます
いい家族たちに囲まれてしあわせです

 苦しいという思いは紛れもない事実であろうが、家族に囲まれながら、未来に向かって生きようとするしっかりとした気持ちがあることが綴られた。
 次に、目や認識の状況について教えてほしいとお願いした。

体は動かなくなったけど言葉もとのままです
目は少ししか見えません
気にかけてくださってありがとう

 さらに、思いのままを綴ってもらうと、表現はさら深みを増していった。

健康なときには感じませんでしたが いい人生ってなんでしょうか
苦しいことはいやだけど好きなことができなくてもこの世に生まれてきてきっと何か意味があると思うので考えながら生きていきたい
きっと苦しみの意味を見つけてみせる
きっといい人生になると思うからおかあさん安心して見ていてください
うちじゅうに喜びがあふれることを願っています
きっといい人間になりますと誓います

 体が動かなくなって1年あまりの時間の中で、いったんは絶望の淵に立ちながら、彼は、今、たくましく立ち上がろうとしている。人間の中に潜む力の大いさに圧倒されるばかりだった。


2008年11月11日 21時17分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 学校 |
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