ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年11月18日(火)
小2の二人の少年と
 小学2年の二人の少年と久しぶりに会った。
 ○○君は、結構手が使えるので、ここのところ、スイッチをいろいろ試して、一人でワープロをうったり、パソコンを操作したりすることをめざしている。前回、昔ながらのジョイスティックがついた、でっかいゲームコントローラーを改良して持っていって、気に入ってもらった。そして、今回は、らくらくマウスとして知られている製品の基盤を手に入れることができたので、ジョイスティックを使って楽々マウスを手作りした物を抱えてうかがった。
 まず、最初に、こちらがたっぷりと手伝う方法で、気持ちを書いてもらった。

いそがしいのにきてくれてありがとう
じぶんでやれてうれしい
いいすいっちをみつけてくれてありがとう
くしんしていますががんばっています
くくのけいさんがきになっています
けいさんのしかたがわかりたい
すきだけどけいさんのほうほうがわからないからこまっています

 小学2年の○○君が、一生懸命気を遣ってくれることがうれしかった。スイッチを毎日がんばっているとのこと。
 そして、九九の話に移った。九九の話は最後にきちんと教えるからと約束して、さっそく、自家製らくらくマウスに挑戦。力が入りすぎるので、ジョイスティックによるマウスのポインタの調整は、なかなか一筋縄ではいかないが、ちょっと手を添えて、ポインタを動かし、クリックするとうプロセスは、いわば本格的なパソコン操作とも言えるので、とてもうれそうだった。
 手伝われるよりも自力でやりたいという思いの強い○○君のおかげで、私も、新しいスイッチの工夫ができて、おもしろい。
 九九の勉強は、彼とふた子のきょうだいの女の子がやっている勉強に触発されたらしい。九九を声を出して覚えている声を聞いて、彼もけっこう覚えてしまったとのこと。
 さっそく、足し算が直線で表されることをパソコンのたし算のソフトで説明。そして、かけ算のソフトを使って、かけ算はマス目を使った広さで表されることを説明したところ、納得したとしっかり首をたてにふった。
 一方、◇◇君は、7月以来だったが、スライドスイッチに手をかけさせると、さっそく文章を綴り始めた。
 最初はソフトとスイッチのことだった。

きくことができてこのすいっちはやりやすい
きっとすいすいできるようになれるとおもう

 目が不自由な彼は、音を聞いてワープロの行や文字を選択しており、そのことをめぐる感想だった。そして、非情におもしろい文章を一気に綴っていった。

いちばんいいたいことはこいびとといいところにいきたいということです
いつかいいひととぼくはであいたい
くなんのひびのなかでうしなわないようにしたいきぼうは
ねがいはすてきなくにできにいったひととくらすことです
このあいだきてくれたおねえさんつかまえたいとおもう
くらすにいつもきてくれるおねえさんです
くにとほさん
くにとほさん
いつもくらすにいます
きっときれいなおんなのひとです
せんせいではありません
きっときもちのやさしいひとです
ぼらんてぃあをしているひとです
かきのきざかにいるひとです

 小学校2年にしてはとてもませたお話だったが、問題は、この「くにとほ」さんが本当に学校にいるのかということだった。お母さんも「柿の木坂にはいったことないしねえ。」とおっしゃる。ときおり、にやっとしながら書かれていたのだが、次のように種明かしをしてくれた。 

たのしいはなしをつくりました
きっといつかあらわれるとおもいます

 ここで私は、いささか不用意なことを聞いてしまった。これまでとてもシリアスな内容を書いてきた彼が、軽い話をしていることがちょっと不思議に思われたからだが、「今日は、こんなことを言おうと思ってきたの」と言ってしまったのだ。すると、こういう答えが返ってきた。

いいたかったことはきぼうをうしなわないことがたいせつということです
ちいさいころからきぼうをもつことのたいせつさをおかあさんがおしえてくれました

 彼は、決して無意味にこうした話題を語ったのではなかった。「苦難の日々の中で失わないようにしたい、希望は。」と彼は最初に書いていた。日々の苦難の中で、希望を持ち続けるということを、とてもわかりやすく、書いたのだった。やはり、今回の文章も、実は、深い意味を秘めていたのだ。
 そして最後にこう書いた。

いいたいことがいえてよかった

 このあと、お母さんのご希望で、パソコンによらないコミュニケーションの方法を試みた。実際に目に見えるような動きで意思表示をすることは、彼にはむずかしい。そこで、手をとって握り替えしてくるような力を読み取ってみることにした。8歳だから8で返事をしてねとお願いをして、ゆっくりと「1,2,3…」と尋ねていく。すると、8のところで握った手に力がこもり、親指がかすかに動いた。こうしたことを繰り返してみると、首が動いて眼球も一緒に動く時と、ってが動く時があることがわかった。ゆっくりと、こういうコミュニケーションが一歩ずつ積み重ねられて、彼の本当の姿が速く周囲に理解されるようになったらと願う。
 





2008年11月18日 23時55分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 家庭訪問 |
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