ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

»くわしく見る
2008年12月14日(日)
美しい言葉のリレー にんたいとわらいときぼう
 順番にやってきた3人の女子高校生が、リレーのように言葉を伝え合った。
 最初は、高校1年生。本当に家に何か忘れてきたのかと思わせるような書き出しは、すでに、物語の始まりだった。

いそいできたのでいえにきていたきぼうのいのりというきれいなあちらのつつみをわすれてきた。
てぶくろなくしたのうさぎがたまたまにおってきたので つみぶかいねこがしらないひとをだまして ちいさなきぼうなくすようにしむけた。
にんたいにつかれたいちずなねこはちいさなしあわせをしんじていちばんみぢかなしあわせをかちとろうときぶんをいれかえてがんばろうとかんがえた。
にんたいしてきたいちわのいろづいたことりに しんらいのわかいつばめがちかづいて きぼうのいちいちしんじられないことりはいしをつらぬいて 
いちわのことりはいいくにをめざしていしをきいてもらいたいと しんらいのしるしに 
いいしろいきれいないちどみたらわすれられないじぶんらしいききょうのはなふぶきのひかったいのりをささげた。

 猫、うさぎ、小鳥、つばめが次々に登場し、に、美しい桔梗の花のイメージが重なる不思議な詩。彼女は、桔梗について、こう付け加えた。

ちいさいころからいつもかんじてきた 
ききみみをたてて きれいなききょうのはなのことは。
ききょうにはきっとにんたいのいみがあるとおもう。

 そして、もう一編、詩を書く。

しろいきれいなききょうのにおいがして
きもちがしずかにぎんいろになっていった
いきていることのよろこびがこみあげて
いきているじぶんとききょうとがじしんのしろいゆきをふらせた
びっくりしたいのちにききょうのはなはきいた
ちいさないのちをちいさくしてきぼうをうしなってしまったのですかと
きいてもわたしはいわなかった
いいひとがあらわれるまではきいてほしくありませんと
いいひとがあらわれたらいいますと。

 「いつ考えたもの?」と聞くと「いま」と答えが返ってきた。
 そして、次に来た、同じ高校一年生のクラスメートに、この2編の詩を読み上げた。すると、さらさらと、次の感想文が書かれた。彼女は、仰向けに寝た姿勢で、私たちが両手を持ち、「ア行、カ行…」と言いながら両腕を開いたり閉じたりするような動きをすると、選択したいところで、両腕を開くようにして意志を伝えてくる。それを、そばで書き取ったものだ。

むずかしい哲学があることばですね。
わたしは言葉の中身はよくわかりました。
たぶんさぞ忍耐をしてきたのでしょう。
忍耐をしすぎて希望をよもや忘れてしまうことがあります。それでも希望はすててはいけません。
忍耐は望みを試すものです。
忍耐は速くおよぐ魚のような望みは除くのです。
そして、忍耐はゆっくりおよぐ魚のような望みは受けとめてくれるのです。
だからわたしたちの望みは受けとめてもらえるので、けしてあきらめてはいけません。
そして、わたしたちは、静かに悩み、ゆっくり望みを持ち続けたいと思います。
たいへんな忍耐が必要ですが、おたがい悩みながらがんばっていきましょう。
とにかくわたしたちは忍耐づよく生きていかなくてはいけないのです。
忍耐に疲れたら笑いを求めていきたいと思います。
楽しいことや面白いことを考えています。
ギャグではありません。わらいはナンセンスでノンフィクションです。
失点は笑いになります。
ナンセンスな笑いは他人がのぞいている状態で考えることです。
テレビでやっているのばかばかしい笑いだらけでつまらない。
落語を聞きにいきたい。
笑いは生がいいとおもいます。
おとうさんといきたい。
寄席にいきたい。
おとうさんにいってください。お正月に、生で。

 一人目の女の子の難解な詩を、一度聞いただけで、私にはわかるといって、すぐに書き始めた文章。「にんたい」という核心部分を見事に見抜いて書かれた文章だ。彼女は、「笑い」の意味について、これまで何度か書いてきた女の子。「忍耐に疲れたら笑いを求めていきたい」と、友だちの哲学に、自分の哲学をつないだ。一人目の女の子は、この文章の途中で帰宅した。自分の文章を、親友が共感してくれたことに、すばらしいほほえみをうかべながら、帰っていった。
 そして三人目の高校三年生の女の子が登場。この二人の文章を、聞いてもらった。

○○ちゃん(二人目の女の子)のかんがえていることはいいきぼうのわいてくることですね
しばたせんせいはどうおもいますか
しのすきなわたしにはまねができませんがとてもきもちがよくわかります
ちいさいよろこびがこみあげてきます
すてきなことぱでした
▽▽ちゃん(一人目の女の子)もすばらしいしでした
すなおなきもちがよくひょうげんされていました
しをつくれる▽▽ちゃんのほうがわたしはにているとおもいます
しをつくつているときもちがおちつきます
きもちがしずまります
しをつくっていたのはにんたいしてきもちがしずんでいていきるのがつらくなるときです
つらいときにげだしたくなるとしをつくってきもちをしずめたいとおもうのです
ふしぎです きもちがそのままことばになっていきます
にんたいのいみについてかんがえたことがあります
すぎたことをくよくよおもいだすのはかなしいですがつよくいきていくためにはひつようなことです
すぎたことでもそのことをちゃんとちからをいれてきぼうをわすれずにがんばりたいとおもいます
▽▽にもつたえてください
ちからいっぱいいきていこうと

 そして、自分の作ってきた詩に移っていった。

しをきいてください

ひかりといのちのこうさくが そよぎ とびかう
しょうじょは なにかをまっている
しらないせかいのねがいが かなえられ
すべてが ちいさなさいわいに やがてかわっていくことを
そして きのうのなやみが とおざかっていく
のぞみどおりでは ないとしても
たくさん のべにさく ののはなは ときをしり
ときにあわせて ねがいをそらに いのっている
きぼうのかぜが やさしくふき
ふしぎなさけびが きこえて
みたこともないような まっしろなはなが
きぼうのよかんをつたえてきた

 三人の言葉が、響き合って織り上げられたイメージの世界。本当の忍耐と希望の意味を知り尽くした若い三人の女の子だからこそ、描き出すことのできた世界だと思う。


2008年12月14日 08時38分 | 記事へ | コメント(1) | トラックバック(0) |
| 自主G多摩1 |
トラックバックURL:http://blog.zaq.ne.jp/yshibata1958/trackback/124/
深くて、ずしりとおもい内容の詩3編でした。
コメントを記入  
お名前(必須)
 
パスワード:
 
メール:
 
URL:
 
非公開:  クッキーに保存: 
※非公開にチェックを入れると、管理者のみにコメントが届きます。
ブログの画面には表示されません。
小文字 太字 斜体 下線 取り消し線 左寄せ 中央揃え 右寄せ テキストカラー リンク