ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年12月23日(火)
青年学級のクリスマス会の日
 12月21日日曜日、青年学級は午後からクリスマス会だった。活動は、今回は、小学校の体育館。私は、午後から別の子どもとの約束があったので、1時までの参加。その中で、いろいろな人と関わった。ここで紹介したいのは、私が所属している、音楽コースのメンバーの3人の言葉だ。
 最初の方は、7月からずっとやっているM.Mさん。

きょうはくりすますかいですね
くりすますぷれぜんとがたのしみです
なにがもらえるかたのしみです
にちようひんよりもきれいなかざれるものがいいです
ときどきにたものがあってざんねんです

 と、気楽な会話から始まった。そして、

きれいなししゅうがほしいです

 と書いてきた。「ししゅう」は「詩集」か「刺繍」のどちらかを尋ねると、

ほん

 との答え。そこで、詩を作ったことあるのと聞いた。

しをつくったことはあります
いいきぶんになります

 今書けるものある?と尋ねると、

はい

 そして素敵な詩が書かれた。

ちいさなしあわせ ちいさくひらき
ねがいのとおりみたされて
ちいさなしあわせ きぼうにみちて
ちいさなしあわせ きぼうをはこび よろこびをひろげ
ちいさなしあわせ はなのように
ちいさなしあわせ しずかにしずかに
ちいさなしあわせ きれいにわいて
しがしきりにまちきれずに
じぶんをひからせようと うまれてくる
にんげんとして うまれいきてきて
きぼうちいさく ささやきながら
きぼうにみちた このじんせいを いきてゆく

 さっそく、コースのみんなに朗読した。みんなの歓声ととともに、横で若い女子学生のスタッフが感きわまって目をうるませていた。
 そして、この若いスタッフは、50代の寡黙な「ダウン症」の男性、S.Yさんにもやってという。私が、もう20数年関わってきた方だが、正直言って、無謀に思えた。簡単な単語を話し、典型的な「頭足類」の人物画を描く方。しかし、彼女の情熱の方が私のこざかしい知恵を遙かにまさった。彼女は、S.Yさんの夢を3つ教えてと問いかけた。

にじをみにいくことです
みんなでみにいこう
ちいさいねがいだけど たいせつにしよう
ちいさいねがいだけど しっかりもっていこう
じぶんのきもちがいえて うれしい
じぶんのきもちが
ちいさいころからのゆめだった
ちいさいときから きもちをつたえたかった
じぶんで にじをつくりたい
きもちがいえるとはおもわなかった
そうげいをいつもありがとう
ちいさいときからいいたいことがいいたかった
にんげんだから
きいてくれてありがとう
しばたさんはどうしてことばがりかいできているとわかったの
わかってもらえてうれしい
きいてくれてうれしい
きいてくれてうれしい
にんげんだから かんがえています
にんげんだから きもちがあります
いいきもち
ともだちがだいすきです
×××さんがすきです
にんげんなのでおんなのこがだいすきです
きびしいです ことばがはなせないのは
ちいさいときからことばではなしたかった
しごともやりたいです
しごといろいろやりたい
にんげんだから にんげんなので みんなとはなしたい
みんなときもちをつたえたかった
ひかりがさしてきました
きぼうがわいてきました

 虹を見に行く、虹を作る、そして気持ちを言う、これが彼の3つの夢だった。
 私は、毎回、活動の終わり、彼を家の近くの交差点まで送っていく。もう何年もそうしてきた。話を十分には理解していないと思い込んでいたので、毎回、独り言をいうつもりで話しかけたり時には歌を口ずさみながらながら帰っていた。若い女性スタッフと歩くときは、すっと手を出して手をつないでにこにこ歩く彼だが、私とは、まったく無表情に歩く。しかし不思議と穏やかさに満ちた時間で、私はこの時間が好きだった。このひとときが「そうげいをいつもありがとう」というかたちで、語られるなどとは、予想だにしなかったことだ。こんないいかげんな私に、ありがとうと言ってもらえることが、ただただありがたいと思うばかりだ。
 さらに、自閉と呼ばれるK.Mさんにも挑戦をした。この1週間の間に、自閉と呼ばれる青年や大人の方々3名とやれていたので、無謀と思いつつ、挑んだのだ。そして、すらすらと次のような文が書かれた。

ちいさいときからはなしたかった
きもちをいいたかった
きいてくれてうれしい
(わたしの名前は?)しばた
きいてくれてうれしい
(どうして、紙を破ったりするの?)きもちをおちつかせるためです
りかいしていることがなぜわかったの
きぼうがでてきました
(ワープロは目で見てやっているの耳で聞いてやっているの?)みみ
しばたさんはきいていないのですか
ききやすいです
(M.Mさんがパソコンをやっているのを見ていましたか?)
みていました
ぼくもやりたいとおもっていました
よかった
きもちいいです
(歌のリクエストは、ある?)とまばなさんば(青年学級のオリジンナルソング)
しんじてくれてありがとう
きもちいいです
(字はいつ覚えたの?)ちいさいときにおぼえた
にんげんとしてうまれてきて きいてもらいたい じぶんのきもち
いきていきたい じぶんのあしで
いきていきたい じぶんのめで
きぼうがわいてきた じぶんのいしをつたえられて
いいにんげんになりたいけど かってにからだがうごいてしまうのでかなしい
ゆめはにんげんとしてきれいなきもちでいきてゆくことです
きもちをつたえたかった
(人の食事に手を出してしまうのはなぜ?)
じぶんのぶんがなくなるとてがでてしまってかなしい
ひとのしょくじにてをだしてしまってかなしい
(S.Yさんの文章を聞いてもらって)S.Yさんのきもちよくわかります
にんげんだからわかってほしかった

 彼は、大切な紙を破ったり、人の食べ物をとってしまったり、突然行方不明になったりと、いろいろなことをする。私たちは、ずっとそれを受け入れることはしてきたが、「かってにからだがうごいてしまう」とは思わなかった。彼の悲しみを、ようやくわかることができた。私たちは、もう一度、彼の行動を理解し直さなければならない。
 大きな常識が今、音を立てて崩れていく。それは、しかし、私たちと彼らの距離を無限に近づけるものだった。


2008年12月23日 01時35分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 青年学級 |
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