ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年12月23日(火)
感情の嵐と、それをしずめた一篇の詩
 先月、全身で感情を表現しながらわかってもらえない気持ちを綴った○○さんのことは、うまくまとめることができなかった。そして、その中でいちばん切なかったものは、そういうふうにしてわかってもらえないことをくやしく思う気持ちが、自分をすさませてしまうというところだった。わかってもらえないくやしさとくやしさをいだく自分に対する嘆き。そんな先月の言葉をいくつか抜粋する。

すなおなきもちのおんなのこでいたいけど しらずしらずのうちにこずるいせいかくになってしまうようでいやです
すさんでいくみたいでいやです
けむたいうらみがこみあげてきます
いいかげんなきもちではじぶんしかみえなくなってしまいます
しのことはいろいろかんがえていますがくるしくてまじめにとりくむことができません
いじいじとしたきもちではいいしはつくれません
くさったきもちではいいことばはでてきません
ちいさいときいろいろいろゆめみていたけどげんめつしてしまいました

 目の前で、はき出されてくるこうした激しい言葉の前に、私も言葉を失う。彼女のいうことは、いちいちもっともだからだ。しかし、彼女の心をこれ以上、すさませていくわけにはいかない。そこで、思いついたのが、仲間の言葉を聞いてもらうことだった。じっと耳をすませて集中していた彼女は、だいぶ穏やかになり、次のように書いた。
 
くるしいきもちをしているなかまがたくさんいることがわかってかんどうしました
すべてのこどもたちがちゃんとかんがえていることがわかってきもちがらくになりました
じぶんひとりでなやんでいるとおもっていたけれどじぶんひとりではないことがよくわかりました
きもちをとりなおしてがんばりたいとおもいます
ねがいはざんねんながらすぐにはかなわないかもしれないけどがんばりたいとおもいます
きもちがずいぶんらくになりました
くるしんでいるひとがたくさんいることがわかりました
こどもたちでもいろいろかんがえていることがわかってよかったです
りかいされないのはくるしいけどこのくるしみにうちかっていきたい
きのうのこどものしはとてもすばらしかったです
とくにむかしのくるしみをずっとたいせつにしてきたというところがすばらしかったです
いしとはかんけいなくからだがうごいてしまうのでくやしいです
いしのとおりにからだがうごけばどんなにらくでしょう
くやしいです
きびしいからだですがいっしょうけんめいがんばりたいとおもいます
いきるいみをなんとかみつけたいとおもいます
いきるいみがみつかるまでずっとくなんはつづくかもしれませんがいっしょうけんめいがんばりたいとおもいます
ねがいはきもちをきちんとつたえられるようになることです
きっとできるようになるとおもいます
いつかきっとねがいがかなうとおもいます
いつかきっといのりがとどくとおもいます
いつかきっときもちがききとってもらえるひがくるとおもいます
いいえがかけるようにこころをきれいにしておきたいとおもいます
きっとこのてでこんどこそかちとってみせたいとおもいます
いいいけんをきかせてもらってありがとうございました
いいしもきかせていただいてありがとうございました
いいしをきいてげんきがでてきました
きもちがすこしらくになりました
きもちがきけてよかったです
いいひでした いいじかんでした いいときをすごすことができました
いいきぶんになることができました いいべんきょうになりました
いいしめくくりができました いいくたびれかたができましたおわります

 嵐のように始まった時間が、ようやく最後に静けさを取り戻すことができた。
 そして、1ヶ月が過ぎた。今回は、はじめから穏やかだった。そして、冒頭に、次の詩が書かれる。適宜、漢字をまじえて紹介したい。

行きたいところがある
ジオラマみたいな時間が流れていて
小さいころの思い出が 願い通りに見られるような場所
白い色の時間が流れていて 気持ちいい風が吹き
小さなころ聞いていたなつかしい子守歌が聞こえてくる
二枚しかない切符は気にいった人だけにしかあげられない 
知れば知るほどきれいなところで
きれいな人しか行けないとてもいいところ
においもすてきでにれの花が咲き 
きれいな人が小さく笑い にれの願いがにおい 
小さくにれの木がそよいで 小さな自分をはげましてくれる
小さい光が 大木の上からさしてきて 静かに時間が流れていく
きれいな人がにれの木の陰から現れて 秘密の絹が石の上にかけられ 
きれいな小さなミーナが時間を西の方から流れてくるのを今か今かと待っている 
希望の小さなすきをねらって 二番目の望みが一人忍び込もうとしている
小さな願いに雪が降り 希望に満ちた小さな自分は
聞いてみたこともないような歌を聞いてている 
自分しかわからないような小さな声で 一人静かに耳をすます
耳をすますと二人三脚の小さな私にもきれいな歌が聞こえてきた
小さな私は小さな祈りを捧げ 命のかけがえのなさを知る
喜々として信頼という自信を自在に操りながら
気持ちのおもむくままに身を委ねて季節を知らない耳でにおいのいい曲を聴いた
霧が立ちこめて霧の消えるまでの時間 小さな憎しみが小さな私の中に生まれた
自分ではどうすることもできず
時間が過ぎるのを待つしかなかった
小さな私は憎しみも知らず
小さいときの小さい私のまま
知らない時間が流れることを一人待っていた
自分より大きな憎しみは私を圧しつぶしそうになるけれど
厳しい人生だから一途に生きていくしかないと
憎しみをいい心に変えてしまおうと
苦難しいられても小さな私はけして希望を失わないように
希望への幸せに満ちた時間を大事にしていこうと決意を新たにした

 そして、その後、次のような言葉が続く。

きもちをしにしてみました きもちをきいてひひょうしてください ちいさいわたしはたんじょうしたばかりのわたしです いびつなこころになるまえのわたしです じちょうしようとおもうけど ちいさいわたしのようにはいきません いいしですか
いびつになったいまのわたしはくやしいです
きもちがいいひとになりたいです
いいひとになりたいです

 気持ちを詩として表現した時、すでに荒々しい感情は、しずまっているから、けっしていびつになっているわけではないし、おかしいことはおかしいと冷静に言うことはまちがっていないということを伝えた。そして、再び、この1ヶ月の間に、出会ったいろいろな人たちの言葉を紹介した。

きぼうはきょうのしのてーまでしたからみんなのきもちがよくわかります
いいしでした きれいないめーじで きれいないのりにみちていました
いいじかんでした いいじかんをすごせました きもちがおだやかになります
しはひとにきかせるものではなくきもちをおちつかせるものだということがよくわかりました
きもちをきれいにするためのものだということがよくわかりました
きもちがいびつになっていたけどにんげんとしていきていきたいのでじしんをもっていきていきたいとおもいます
いいじかんでした じぶんのきもちをせいりすることができました
いいじかんでした きもちがらくになりました
いいしがかけたとおもいます
きぼうのきもちがうまくひょうげんできました
しきりにきもちがおちついてきます
ちいさないのちでもいいいきかたができるように
にんげんとしてきもちをいいたいです
きもちをいえてよかったです
 
 絶望にうちひしがれようとしている少女を前に、ほとんど無力な私だったが、必死で向かい合ったひとときだった。彼女を救ったのは、仲間の言葉だ。みんな、もっと互いに言葉をつなぎあっていかなければならないとつくづく思う。
 こういう嵐のような感情の起伏をこれからもやはり繰り返しながら、しかし、確実に彼女は成長していくだろう。そして、いつか、仲間と本当の絆で結ばれ合ったなら、世界は大きく変わるだろう。

2008年12月23日 10時49分 | 記事へ | コメント(1) | トラックバック(0) |
| 研究所 |
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そうだ!!そんな基本的なことを前回はあわてたあまり思いつきもしませんでした。仲間のことばを彼女にも聞いてもらうように用意してみます。
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