いいちいさなぼくでありつづけるために
今回で3回目になる中1の少年は、せっかく自分が言葉を表現できるようになったにもかかわらず、そのことが大人たちに理解されない寂しさを最初に語った。表現できることがわかった後に、こんな試練が待っていようとは、思いもよらなかったのにちがいない。しかし、残念ながら、それが厳しい現実だ。
ひとしきり、その話が続いたところで、体の動きの問題について尋ねてみた。パソコンをやっている最中にも、手が前に伸びて、いろいろなコードを引っ張ったりするのだが、それが、きっと誤解されていると思ったからだ。私も、昔なら、その行動をいい意味で意図の現れと解釈してきたのだが、どうも事情は違うらしいことがわかってきたからだ。
かってにてがうごいてこまっています
きもちとはかんけいなくてがうごいていいこだとおもわれない
パソコンの画面上に、きちんとした文章が並んでいくかたわらで、まったくそのこととは無関係なことのように手が伸びて、いたずらのようなことをすることを、こんなふうに書いてもらうと、その意味がよくわかる。意図したのとは違う方向に手が伸びるという不随意運動とはちがって、意識のコントロール下に置かれていない行動があるということだ。どうしてそんな行動が起こってしまうのか、説明ができるわけではないが、そのような行動があることは、私自身が聞き取った多くの証言から明らかだ。そして、そのことは時として、彼をわがままに見せたり、言葉やルールの理解がない子どもとして、誤解を生じさせてしまう。それが、「いいこだとおもわれない」という言葉にこめられている。理解されないだけではなく、誤解までされているのだ。
そのことについて、自分なりの考えを彼に伝えたあと、詩のことについて尋ねてみた。すると、やはり作っていて、今、書けるという。そうして、生まれたのが次の詩である。
しろいしろいいぬがきみにはみえますか
しろいしろいねこがきみにはみえますか
きぼうのいろをしたいぬとねこは
いいいきをはいてきぼうをつたえます
ちいさいぼくは にひきのきもちがよくわかる
きぼうにはばたこうとして
きぼうを きたのくににむかってさがしにいこうとして
きぼうにみちたかぜにむかって
きせつのかわることをかんじながら
えみをうかべ しろいいきをはく
ちいさなぼくは きぼうをうしない
ちいさなぼくは きたにむかっていのる
しろいいぬとしろいねこ はやくぼくにきぼうをください
しろいつぶらなひとみをした いぬとねこは
きぼうをきせつにひいらぎのなかまにして
しろいきたのくにの いいきぎに
じかんというしろいいきものにかえて
いつまでも しろいしろいきたのしかのすむくにの
きたかぜにいのった
いいじかんが ちいさなぼくをじっとつつんだ。
「きぼうをきせつに」のあたりは、助詞の読み取りの間違いがあるのかもしれない。白い犬と白い犬の不思議な物語。そして、そこに吹いているのは北の風だ。多くの子どもたちが歌った北風に、彼もまた特別の意味をこめる。
そして、彼は、詩を作ることの意味と希望の意味を語った。
きもちがしずんでいるときに
じぶんのきもちをあかるくするためにつくっています
きぼうがなくならないように
いいちいさなぼくでありつづけるために
いつかきぼうがかなうように
いいきもちです
いいじかんです
いいいちにちです きもちがすらすらかけて
きぼうしかひつようなものはありませんから
きぼうだけをかんがえていきています
ちいさなぼくは いいこどもになりたいとおもうので
いいきぼがひつようです
きぼうというものがにんげんになかったら
じんせいはいろをうしなってしまいます
いいきぼうがにんげんにはひつようです
しいていけんをいえば いいいきかたをするためにも
ちいさなぼくはきぼうやねがいをだいじにしていかなければならないので
きもちをつたえられるようにいっしょうがんばりつづけなくてはならない
くろうしてもきぼうをうしなってはいけない
しいていえばきもちをにげないようにして
きぼうぼくといっしょに
しいていえばきぼう ついいちじかんまえには
なくしかけていたけど
きぼうをなくさずにいきていきたい
きぼうがわいてきましたがんばります
ありがとうございました
またよろしくおねがいします
きぼうがでてきました
きたかぜにいのってよかったです
いいじかんでした
いいいちにちでした
つい一時間前、彼は、確かに、わかってくれないことを嘆いていた。そうした気持ちから、北風に祈ることによって、再び希望を取り戻した。詩は、単なる詩ではなく、祈りであることがよくわかる。
彼の切実な祈り、どうか、多くの人に届いてほしい。
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2008年12月26日 02時01分
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