ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2009年01月10日(土)
二人の青年の新しい年の始まり
 10年あまり前から関わってきて、先月、初めて、パソコンで気持ちを伝えられるようになった二人の青年がいる。ともに、知的障害の養護学校に通い、一人は、激しい自傷行為に特徴があり、もう一人は、自閉と呼ばれる状況にあって、二人とも、発語はなかった。手に、目立ったまひがあるわけでもなく、教材次第では、様々な操作も可能だっただけに、2スイッチワープロは、重い肢体不自由をかかえた方々に役に立っても、この二人には、通用しないであろうと思っていた。その二人が、先月から、2スイッチワープロで言葉を書くようになった。私自身も信じられないような思いで、今回も望んだ。
 最初の自傷の激しい○○君は、手を使うのを嫌ったので、肩にビッグスイッチと呼ばれる市販のスイッチを押しつけたり離したりしていると、選択したい場所でスイッチがはいりっぱなしになるということで、意図を読み取って文字を綴っていった。そして、以下の文章が綴られた。(句読点をくわえて紹介する。)

あけましておめでとうございます。いいいえがほしい。じぶんのいえで、ずっとくらしていけるいえがほしい。あたまでははなしができていても、くちではいえないのでこまっていました。さそっていただいても、てがつかえないのでつらかったです。きもちがことばでつたえたかったです。かたではなせるとはおもいませんでした。きもちがいいです。ちいさいころからはなしたかったです。ちがうたのしみがみつかりました。べんきょうがもっとしたいです。しりたいことがいっぱいあります。がっこうではちゃんとしたべんきょうしていないので、くやしいです。じゆうがほしい。きぼうがでてきました。なんでにんげんとしていきてきて、いいにんげんらしいいきかたができないのだろうか。くやしいです。てがかってにうごいてこまります。ちいさいときからこまっていました。ちいさいときは、いつかてがつかえるようになるとおもっていましたが、あきらめていました。たのしみは、がっこうでともだちとあうことでした。ききとりができても、こえではなせなかったので、うらやましかったです。きいていても、なにもりかいしていないとおもわれて、つらかったです。きくことができても、はなしができないと、しんじてもらえませんでした。いいたいことはたくさんあったけれど、きいてもらえませんでした。がっこうをそつぎょうしてからもおなじでした。ねがいはきもちをいえるようになることです。ちいさいころからのゆめでした。
 
 これまでの、つらかった日々の思いが切々と語られた。途中、彼は、大きな声で叫び声を上げるような場面もあった。気持ちが、そのまま声になっているのがわかったが、残念ながら、その声は、言葉になってくれなかったのだ。自由への思い、自立への思いも、いたいほど伝わってきた。
 また、文章が、一段落したところで、パソコンではなく、彼の手を握って、軽くふりながら「アカサタナ」と言う方法で、彼の気持ちを読み取ってみた。すると、選びたい行や文字で、確実にふっと力がこもってくる。今日、家に帰って聞きたいCDかビデオは何ですかという問いに対して、彼は、

むかしみたびでお。ととろ。

と答えを返してきた。一緒におられた先生方とも、簡単な単語に挑戦し、うまくいった。新しいコミュニケーションの可能性が開けそうなそんな予感がした。
 二人目の▽▽君は、とてもうれしそうに入ってきたが、どうも、長いこと座り続けることがこの日はいちだんとむずかしそうで、座っては立ち上がり一回りしてくるということを繰り返しながら、スライドスイッチで文章を綴っていった。
 今回は、途中から、いくつか質問をして、会話のように進んでいった。

いいきもち。きもちをいいたかったけど、いえなくてこまっていた。きぶんがいいです。きもちがいいたかった。
(お父さんにひとことお願いします。)
おとうさんいつもありがとうございます。しごといつもおつかれさまたいへんですね。がんばってください。
(お母さんにも一言お願いします。)
おかあさんいつもありがとうございます。からだにきをつけてください。しんぱいしています。
ちいさいころからはなしたかったけど、きもちをうまくいえませんでした。
(どうして手を服の中にしまってしまうのですか。)
かってにてがうごくのをとめるためです。
(服の中に手を入れるようになったのは、高等部からですよね。)
こうとうぶからとくにとめられなくなった。
(文字はいつどうやって覚えましたか。)
こどものときにおもちゃのつみきでおぼえた。
(お母さんから、冗談交じりに、心配なら、態度で示してよと言われて)
おかあさんごめんなさい。
さいきんじぶんがきもちをいえるようになった(…)

 最後の文は、まだ、続きがありそうだったが、二人とも、時計の長い針がきっちり12を示すと、さっとやめてしまった。今度理由を聞いてみたいが、次に来る人もいるし、気を遣っていたのかもしれない。
 本当に新しい一年になりそうだ。

2009年1月10日 22時52分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 自主G埼玉2 |
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