ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2009年02月26日(木)
ひにひにはるがちかづいてきて…
 この冬、多くの人たちから、北風が希望の風であることを教わった。春の足音が近づくにつれ、私は、今度はどんなメッセージをもらえるのか、楽しみに待ってきた。その最初の春のメッセージをもらった。舞い降りた詩人として紹介してきた小学6年生の女の子である。

ひにひにはるがちかづいてきて
ふゆがしだいにとおざかっていきます
ちいさいころからきっとはるがくることをしんじていたので
うれしいです
きたかぜはきたのくににかえり
またらいねんのふゆまでにんげんのかなしみをききながら
ぬいかけのきじをかんせいさせるために
しずかにときをまつでしょう
ちいさいときからそんなことをかんがえながら
はるをまっていました
しずかなしずかなゆきのひは
すこしきたのくにのかなしみになみだしながら
ちいさくねがいをつむぎながら
にんげんとしてうまれたことをよろこびにかんじたら
ひかれるわしのはねと
ちいさなにんげんのきぼうのちかいを
ゆめみていました
きぼうのきたかぜがさって
ちいさなねがいのじかんがみちてくると
かみさまのよげんのとおり
りそうのはるがずんずんとすすんできます
きぼうのきたかぜののこしていったきぼうが
はなとしてひらき
ひとびとをしあわせにします
きたかぜのきぼうがひらいたとき
にんげんはふゆのきびしさをわすれてしまいますが
ねがいのなかみをちいさいにんげんは
ほんとうにはりかいしてはいません
きぼうのきたかぜがくれたきぼうは
ちいさいにんげんでもじぶんをだいじにとちかう
ほんとうのねがいです
きぼうのいみさえにんげんはしらずに
ひとはいきていくことがだいたいおおいのですが
にんげんはちいさいときからききみみをたてて
ちいさいほんとうのきたかぜのこえをきいていれば
そのことにきづくことができるのです

 かろうじて発せられる音声言語は、これまで、彼女の本当の力を明らかにしてこなかった。そして、見ることについても、文字の区別や一桁の数の区別でも、困難を示していた。ところが、パソコンの2スイッチワープロや援助による筆談を通して、実に、豊かな言語の世界と、算数についても、比例の難しい問題でさえすらすらと解けることがわかってきた。話すことと見ることについて、どうも、私たちが大きく見逃していることがあるらしい。その一端を示す説明を彼女自身からもらった。
 まず、算数の計算の答えを口頭で求めるとできないことについて(この時は、22×3を尋ねて、口頭では答えられず、筆談ではすぐに66と書けた)、

くちでいおうとするとしきがきえてしまってできなくなる
しきがきえる

 文字や文を見ることについては、どうも、速読的な見方ができるようで、次のような説明をしてくれた。

ひとりでよむのはできないけどめくってもらえばわかります
みればわかります
みているといみがわかる
にらむようにするとみえなくなる
なんとなくみたほうがわかる

 注視すると文字が見えなくなってしまうというのである。実に、私は、かつて、彼女に、ひらがなの注視や、タイルの注視を求めてきて、その区別がうまくいっていないと見なしてきたのである。そして、なんとなくみたほうがわかるというのである。このことは、慎重な検討を要するが、最近、援助による筆談をSTAという呼び方で実践されている先生にお会いした時にも、このことが話題になった。彼女でも、そういうことがどうやら起こっているらしい。
 また、これまでのことについて次のようなことも述べた。

きかれるとわからないとこたえてしまっていた
ほんとうはよめていた
ゆうきがなかったからすなおにいえなかった
あなにはいったようなきになっていた
じはよめてもきもちがじしんがなかったからいえなかった
いまはかんがえをいえるようになったからいい

 深い反省を促されるような言葉だった。
 それから、援助による筆談(これは私の姪が彼女に行っている)と2スイッチワープロについても、面白い説明をした。

じぶんのかんがえだからかんたんにかける
のーとはじぶんでかいているかんじがするけれどぱそこんはたにんがかいているようなかんじがする
かんがえはじぶんのものだけど

 運動に伴う努力感のことを上のように表現したものだと思われる。
 ところで、彼女は、これまで6年間を通常学級で過ごしてきたが、中学校からは、特別支援学校に進むことになっている。新しい学校でどのように彼女のことを理解してもらうかはとても大きな問題だが、そのことについて以下のように記した。

じぶんのかんがえをつたえることにくろうしてきたのでちゅうがくではりかいしてもらいたい
きにしてはいません
きもちはりかいしてもらえなくてもかまわないです
かんがえをわかってもらえればいいです
ぱそこんでかいたものをみてもらえばわかります

 新しい学校で、彼女の力が正当に評価されていくことを切に望んでいるところだ。
 


2009年2月26日 12時28分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 家庭訪問 |
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