ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2009年03月15日(日)
早春の小児科病棟にて
2月の病室での☆☆さんの言葉を紹介したい。昨年の1月に関わり始めて、毎回、じっと手に伝わってくるわずかなものを感じ取って、ようやく1時間半ほどかけて10文字聞き取るのがやっとということを続けてきて、12月には30文字ほど読み取れるという状況だったが、1月から手を手を握って軽く振りながら「あかさたな」と聞いていく方法を始めてから、文字数が飛躍的に伸びた。(ただ、パソコンではないので、横で筆記していただく必要がある。)☆☆さんは、まず、そういう状況について話し始めた。

☆☆をりかいしてくださってありがとうございます 
☆☆はじぶんのきもちをもうにどどわかってもらえるとはおもいませんでした 
なぜしばたせんせいはやめようとはおもわなかったのですか
かんしゃしています じぶんのきもちをいえてかんげきしています きもちがいえるようになったのできもちがらくになりました
げんきなときはよくねがいごとをかあさんにいってきましたが いえなくなってからなにひとつわたしのねがいごとをつたえられなくなってしまって のぞみをもつこともわすれてしまいました びっくりしました よくわたしのてのうごきをよみとることができるなんてしんじられないきもちです すばらしいほうほうですね じかんがかかりましたがわかってくださってありがとうございます

 私は、☆☆さんのこれまでの経緯をほとんどうかがっていない。ただ、枕元には、今よりももっと体を動かすことのできた小さい頃のあどけない写真がある。その頃も、けっして自由自在にコミュニケーションができたわけではないらしいが、おそらく、何かのかたちで、今よりも気持ちを伝えることができていたのだろう。そのような状況をふまえての言葉だ。
 この後、担任の先生も積極的にこの方法に挑戦していて、何かの言葉をやりとりしていたが、それがあっていたかどうかを私が尋ねてみた。

あっていました なんかいもやっているうちにわかるようになるとおもうのでよろしくおねがいします

さらに、前々日に先生が聞き取った同じ病院に入院しているお子さんのことを先生が尋ねた。

おぼえています しんぱいです にかいのきゅうめいせんたーにはいるのはびょうきがおもいとゆうことですから どんなぐあいかしりたかったのです

 ここで、私は、頭の中で詩を書くことがありますかと尋ねた。すると、

あります 

 そこで聞かせてくださいとお願いした。

はい 
きぼうのひかりがさしてふしぎなかぜがふいてきた
ねがいのみをのぞむねがいをゆめみて 
ほんとうのきぼうがかなった
ねがいのいのりがてんにとどいて 
さいこうのねがいのようにひかりました
しずかなしずかなわたしのよろこびがからだじゅうにひろがって
ゆめのようなのぞみがわたしのこころのなかに 
よろこびのときをもたらした
ひかりがさしてわたしのうえにふりそそいで 
なんともいえないよろこびが
わたしをいいせかいにつれだしてくれた 
おしまい

 表現することの喜びがひしひしと伝わってきて、私も、そういうできごとにかかわらせていただいていることを、この上なくありがたいと思った。
 そして、今度は、横で見守っておられるお母さんに何かありませんかと尋ねてみた。

とてもうれしい わたしのことをいつもめんどうみてくれてありがとうございます かんしゃしています
 そして、隣のベッドの○○君を気遣う言葉が続いた。
はやとくんがまっています
 
 その言葉を受けて、隣のベッドに私は移動した。○○君との会話は今手元にないのだが、同じ方法で、やはり飛躍的に文章が長くなっている。その間、先生は、☆☆さんと会話を続けていた。それは、お母さんが昨日びっくりすることがあってしょ、あのことを教えてあげたらという言葉を受けてのことだった。

まねみさ(けす)やざ  ちとしま(けす)もかわたしもめお(けす)りよきは

 まだ、はっきりとしてはいないが、すでに、そこには、確実に彼女の言葉の断片が綴られている。そうこうしているうちに、私は、○○君から☆☆さんのメッセージをもってもう一度ベッドサイドに立った。内容は、さきほどの詩を聞いた○○君がそのことをほめたことだった。すると彼女はこういう答えを返した。

とてもうれしい ○○くんのきもちがつたわってきました くるしいときもあるけどともだちがそばにいるのでさびしくないです これからもよろしくね

 24時間、同じ病室で過ごしているけれども、会話を交わしたのは初めてのことだ。中学2年生と小学2年生だが、1年半同じ病室にいて、2人の気持ちは、すっかり通じ合っていた。
 さらに、さきほど先生と何を書いたのかを聞いてみた。

ちかくよいしらせがわたしにおとずれるとおもいます きっとおかあさんがはやくびょういんをたいいんするといってました わたしのねがいです

 これは、周囲の者にとっては、とても意外な答えだった。退院ということは、お母さんンは一度も口にしていないとのこと。そこで、私が、「ねがいとして頭に浮かべたの?」と聞くと
ねがいをいいました
と答えが返ってきた。そして、さらに文章は、別の内容に移っていった。

しずかにしているとこえがきこえてきます 
ずっとむかしのわたしのゆめがきこえてきます 
いいじだいのわたしのゆめです
しずかにしているときこえてきます かこのきれいなおもいでのおとが
しずかにしているときこえてきます 
ちいさいころのすてきなこえがします
しずかにしているときこえてきます 
じぶんのかなえられなかったゆめのこえがします
しずかにしているときこえてきます じぶんのゆめのこえが 
なにもしらずにいきていたころのねがいのこえがします 
しずかにしているときこえてきます 
ゆめはかなわなかったけれどあたらしいきぼうをしらせるこえがします
やっとあたらしいきぼうのこえがきこえてきました

といつか詩になっていた。そして、その詩を受けてさらに言葉は続く。

しんじてにんたいしていたのですくわれました きぼうがわいてきました 
にんたいしてきたかいがありました 
ずっとまちつづけていました このひがくることを 
きぼうがくるしみにとってかわりました(本人は、「くるしみがきぼうに」と書いてしまい、先生からこれだと反対になってしまうねというと)
かきまちがえました 
にんげんとしてうまれてよかったとおもえるようになりました 
みらいがひらけてきました 
ねがいがむくわれました ねがいがとどきました 
しあわせです わかってくれてありがとうございます 
きょうもとてもよいじかんをすごせてうれしいです 
ありがとうございました またよろしくおねがいします

 2月も下旬の病棟にも少しずつ春の訪れが感じられるようになったが、ともに過ごした時間は、長い冬を耐えた花が、一気に春を謳歌するように咲き誇ったような時間だった。


2009年3月15日 22時31分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 小児科病棟 |
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