べつにきめつけることはないんじゃないかとおもいます
1月に初めてお会いした高校生の☆☆さんのお母さんのご希望で、彼女が以前、幼児期に通っていた通園施設に、彼女のことを紹介するためにうかがった。この施設では、20年以上前のことだが、私自身、半年間、ある方のピンチヒッターとして個別指導の仕事をしたことがあり、当時のスタッフも園長先生を始め健在なので、私自身、とても楽しみだった。うかがうと、30名ほどの方がご覧になる前で、☆☆さんのコミュニケーションの姿を紹介することになっていた。さすがに、驚いた。だが、☆☆さんの様子を見ていると、何か、大丈夫だなと思わせるものがあった。後で、明らかになったことだが、彼女は、単に自分の姿を見せるということではなく、同じような状況にある仲間たちを含めた自分たちのことを理解してもらうために訴えていこうという強い意志を持っていたのだ。
まず、手だけで聞いてみる。すると
ねむいけど、がんばります。
とのこと。そして、パソコンをプロジェクターにつないでスクリーンに大写しになった状態で、文章を綴り始めた。
じぶんのきもちをつたえることができるようになってみらいがひろがってきました
ここでいろいろ私の方から方法について解説をくわえたのだが、お母さんから、どなたか、娘とやってみてほしいという、大胆な提案があった。そうしないと、この場では、納得できたように見えても、後でもう一度振り返った時に、あれはやはり何かおかしかったという話になってしまうからということだった。
そして、勇敢にも前に進み出てくださったのは、やさしそうなOTの女の先生だった。そして、☆☆さんの手をとって軽く振りながら、ゆっくりと「アカサタナ」と始まっていった。そして、綴られたのは次のようなことばだった。
せろんすすんでよ
ややきざし すこしくらいはしんぽしそう
この文章は、「せろ」「せろんす」などと書かれていっても、意味がなかなか見えにくい内容だったので、途中、この文字でいいのかということを「はい」の場合は「ハ行」を、「いいえ」の場合は「ア行」を選ぶことで確認しながらいった。あえて、予測しにくい文章を選んだのかも知れない。おかげで、このPTの先生がやっていることの真実味がいっそう増した。いきなりこうやって初めての人が、しかも大勢の見守る中で読み取れたという経験はこれまでなかった。これは、きっと「きざし」であり、「しんぽ」の予感がする。
ここで、彼女に対する質問を受けた。
すると、まず、体の状況に関する質問が来た。一つ目は、たえず首を大きく左右に振り続けているのはなぜかということ、そして、二つ目は、その状況で見えるのかということだった。
彼女の答えは以下の通りである。
かってにからだはうごきます
みえます だいたいは
ふだんのせいかつでこまりません
じはみえません
次の方の質問は、幼児期にここに通った時のことは覚えているかというものだった。
はい
ひさしぶりでしたがおぼえています
ちいさいときはなんでもできるようになるとおもっていましたから かようのがたのしみでした
じぶんでなんでもできるようになれたらいいなとおもっていました
さらりと綴られた答えだが、何か、非常に胸をうつものがあった。障害のある幼児とたくさん私も関わってきたが、こういう思いをいだいていたということには思いが及んだことはない。幼いながら懸命に自分の障害と向き合い、その中で様々な夢をいだいて努力していた姿がうかびあがってきた。私たちが、まだ、小さくて障害も重いからそんなことをまさか思っているとは思えないような内容だった。そして、この時、まわりで見守ってくださっている方々の空気が動いたことを私は感じた。彼女の、懸命のメッセージは、単なる方法の議論を越えて、心の問題として届いたからだったのだろう。そして、そういうふうに受け止めてくれるこの学園の方々を本当にすばらしいと私は、感じた。
次の質問は、言葉をいつ覚えたのかというものだった。そして、次のような大変示唆に富む答えが返ってきた。
ちいさいころからことばはわかりました
いいたいことをいいたかったです にんげんですから
じはなかなかむずかしかったです
のぞんでいましたがなかなかりかいできませんでした
ひとりでおぼえました ねがいでしたから
ちいさいときはおぼえられませんでしたが
しょうがくせいになるとわかるようになりました
さらに、障害の重いとされるほかの仲間たちも言葉がわかると思うかという質問がきた。
みんなことばはわかっているとおもいます
べつにきめつけることはないんじゃないかとおもいます
わかってほしいです わたしたちのことを
きびしいです はなせないのは
私たちが長い間決めつけてきたことに対する重く静かな抗議の言葉だった。
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2009年4月4日 11時31分
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