ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2009年04月06日(月)
長い沈黙の時を越えて
 小学生の時から研究所に通い、30年ほどになる○○さんに、久しぶりにお会いした。私とは曜日がずれているので、なかなかお会いできないのだが、大学の入学式が早く終わった関係でうかがうことができたのだ。
 4年前の夏の研究会で私が行ったパソコンによる自己表現の発表を聞いたお母さんが、うちの○○もできるのかしら、と尋ねられたことがあり、それ以来の懸案だった。
 彼の担当は友人の教師で、最近は飲むと彼の言葉の可能性のことを話していたので、今回は、さっそく手をふる方法で聞いてみることにした。すると、すらすらと手で話が返ってくる。そこで、パソコンを取り出すことにした。
 そして、綴られたのは以下の長文である。

けんきゅうじょにいくことがたのしみでずっとがんばってきました
ちいさいころからこんなきかいがあればよかった
なんでもいえたらうれしいです
ふしぎです
ぼくのことをりかいしていることがどうしてわかったのですか
ふしぎです
だれもぼくがはなしがりかいできているとはおもってくれませんでした
ちいさいときからはなしたかった
ちいさいときからにんげんとしていきていきたいとおもってきたのでかんげきです
にんげんとしていきたいとおもいます
じぶんのいいたいことがいいたいです
びっくりしました
ねがいでした
ふしぎです
ちからをいれていないのになぜわかるのですか
びっくりしました
みんなとはなしすることができたらうれしい
ねがいでした
×××せんせいずっといつもかかわってくださってかんしゃしています
ねがいでした
じぶんのきもちをいうことをゆめみてきました
みんなとはなしたいとおもいます
りかいしてくれてありがとう
じんせいがひらけてきました
ゆめでした ことばではなしをすることが

 ここで、詩のようなものを作ったことがあるかと質問した。すると手で「はい」との返事、早速書いてもらった。
 
ゆめみてきた はなしができるようになることを
ひかりがさしてきた ぼくのじんせいに
にんげんとしていきてきて ゆめをいだき
にんげんとしていきてきて きぼうをもちつずけ
ふつうにいきてきたのにじぶんのきもちをいえず
みんなのことをうらやみながらいきてきた
ひとりでちいさいねがいをもって
ひとりでもがきながら
きぼうをもちながら いきてきた
ふつうのがっこうにもいきたかった
みにせまるきもちはきんじられ
みにせまるしれんにはとびこせず
ひとりでずっとたえてきた
いいみらいのこえがきこえ
いいみらいのひかりがさし
めのまえにあかるいにんげんとしてのじんせいが
ひらけてきた
ちいさいころからきもちがいえず
ちいさいときからつまらなかったけれど
あかるいみらいがひらけてきた
みたこともないみらいがひらけてきた
いいにんげんになりたいとおもいながら
いいにんげんになれず
じぶんのきもちをいえずにぼくはいきてきたけれど
ちいさいきぼうがわいてきたに
んげんとしてひとりでゆめをずっとだいじに
いきてきた
にんげんとしていいちからをだして
いいじんせいをいきていきたい

 40歳を越え、施設生活をしている彼のおなかの底からの思いが綴られた。途中、彼の目に涙が浮かんだり、また、何度もおなかの底からの笑顔を浮かべながら、彼が書いた深く重い詩だ。

きいてくれてありがとうございます
いいじかんがすごせました
ねかがいがかなえられてしあわせです

 こうしめくくり、彼は去っていった。言葉を聞き取れた喜びはあったが、彼の生きてきた時間の重みは、言葉にはとうてい表せない重いものを心に残した。

2009年4月6日 16時40分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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