ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2009年04月14日(火)
ひとりでもおおくのそんざいがほこりをとりもどせるように
 20代の女性の3度目の言葉を聞いた。長い間話せなかったことをめぐる切々たる思いから始まった。

ちいさいときからはなしたかったけど、なかなかはなせず、よくたえてきたとおもいます。みたことをはなそうとしても、りかいしたことをはなそうとしてもだめで、ゆめでした、はなせるようになることが。やっとはなせるようになったので、これからはやわらかいねがいをはなしながらいきていきたい。ちいさいころはみんなはなせるようになるとおもっていたけどむりでした。ゆめでした。

 そして、同じ思いをいだいているであろう仲間たちのことへと思いが及んでいった。

みんなもきっとおなじきもちだとおもいます。にんげんだからやはりみんなきもちをもっています。みんなもことばではなしたいとおもっているとおもいます。ひとりひとりちがっているかもしれませんが、びんかんにかんじとっているひともいるとおもいます。

 静かではあるが、まだまだ不十分でしかない私たちの取り組みへの抗議とは言わないまでも、切実な訴えであることはまちがいない。そして、さらに、次のように続く。
 
ゆうきをだしていいたいことをいいたいとおもいます。ぬいぐるみのようなじんせいとはおわかれです。 

 この後、彼女は、「勇気を出して」事実を語る。それは、これまで関わってくれた人の中には、きびしい人、見た目で判断するだけでわかろうとはしない人、やさしい人でもわかってくれるわけではないということ、かわいがるだけで理解してくれない人など、いろろいろな人がいたということ、そして、次の一文へと続く。

みさかいなくさびしいおもいがしていました。わかってくれたせんせいはNせんせいだけでした。ひとりだけです、きもちをきいてくれたのは。Nせんせいだけでした。りかいしようとしてくれたのはほかにはいませんでした。りかいしてくれたひとはわかいおんなのせんせいにはいましたが、みんないちねんでいなくなってしまいました。

 N先生とは、小さいときに担任をしてから、彼女の体の障害が進行していくことをずっと気にかけていて、研究所で彼女と関わるというかたちでずっと長い間、つきあってきた先生で、私にパソコンで彼女の気持ちを聞くように依頼した先生である。気持ちを言葉で聞くということだけに限定すれば、私の方が技術的な意味で彼女からたくさんの言葉を聞き取ることができる。しかし、言葉よりももっと大切なことがあることがよくわかる。言葉を聞き取れないよりは聞き取れた方がいい。だが、それよりも大切なことがある。ここでは彼女は「わかる」という言葉で表現しているが、それでは、わかるとはどういうことなのか。きっとそれが、言葉よりももっと大切なことであるし、「わかる」という言葉の本当の意味は、実際の関わり合いを通してのみ、理解されることだと思われる。
 その後、彼女は、発作についての母親の質問に答えて、次のように語る。

きゅうにからだがつっぱってしまいます。いしきはありますから、はなしはわかっています。にねんまえおおきいほっさがあったときはからだだけでなく、いしきもなくなりました。みんなのことはわかりません。じぶんでもどうしようもないのでこまっています。からだをだきとめてもらえるとうれしいです。じぶんだけのときはこわいです。ゆうべもほっさがあったときひとりだったのでふあんでした。

 また、訓練についての質問については、

くんれんはしかたありません。せっかくやってくれているのにわるいです。ねむくなるのはどうしようもありません。ほこうくんれんはいいですが、やらされるのはいやです。

 そして、詩を作っていないかと質問をして、次の詩を書いた。

にんげんとして
きもちをもっていきてきて
りかいされることなく
ひとりのぬいぐるみのようなそんざいとして
いきてきた
ゆめをもち
みらいをゆめみて
わたしはいきてきたけど
りかいされることはなく
ときがいたずらにすぎていった
だけどそんなわたしがことばをもち
にんげんとしてのいっぽをふみだした
にんげんとしてのほこりをとりもどした
ゆめをいっぱいもち
ゆめをもっといだいて
これからのじんせいをいきていこう
りかいされたことのよろこびを
みんなにつたえて
ひとりでもおおくのそんざいが
ほこりをとりもどせるようになることを
ねがいながら。

 一人でも多くの存在が誇りを取り戻せるようになることへの、彼女の切なる願いに、少しでも応えていかなければと思う。

2009年4月14日 05時45分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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