ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年06月15日(日)
父の日を前に2
 明日はいよいよ父の日という土曜日、高校生の○○さんは、お父さんとやってきた。長いおつきあいの中で、二人だけで見えたのは初めてのことだった。
 そして、始めるなりさっそく綴った言葉が、「おとうさんいつもありがとうございます。ぐっどふぁざーしょうをあげたいとおもいます。ふだんはうちにいないのでつまらないけどおやすみのひはいつもあそんでくれてかんしゃしています。もうすこしらくなしごとになることができればいいとおもう。」お父さんは、さすがにてれておられたが、年頃のかわいい娘さんからの、最高の父の日のプレゼントになったのではないかと思う。
 さらに、「ふしぎなきもちがしています。とてもことばではいえないとおもってきたけどこうしておとうさんにかんしゃのことばをいえることが。とてもむりだとおもってきましたから。」と続いた。
 彼女とは小1からのおつきあいである。文章を綴るまでに、様々なスイッチを使った教材と姿勢への働きかけから始まり、絵カードによる選択、絵本のソフトへと発展し、文字の弁別、ワープロソフトへとゆっくりと学習内容は発展していった。しかし、文章への発展にはけっこう時間がかかった。途中、彼女は、わざわざ「えほん」と綴って、ワープロよりも絵本のソフトを要求する時期もあったりした。彼女にとって、その頃、ワープロソフトは、自分の気持ちを表す手段になるとは思えず、高いハードルに感じられていたのだろう。「あひしまにくかき(2002.5.11)」が、最初のワープロの記録である。その後、「えほん」「のんたん」など絵本をめぐる単語が続き、初めて自分の気持ちらしいものが綴られたのは、2003年の12月の、若い男性教師に対して「かくいい」という言葉だった。そして、2004年9月にプレゼントでほしいものとして「りぼんあかあたま」と綴った。彼女が自分の気持ちを表現できると感じたのは、このときからではないかと思う。これから、ほしいものを少しずつ綴るようになっていった。そして、文章になったものが、2005年10月の、「なきましーたーきにいらないかあさーんげんいんかみがあさきたない」である。2006年9月から文が長くなり、文体も「あたしのねっくれすいいいろでしょ。」から始まるようなものになっていく。そして、その中に、「ちいさいころからわかっていましたのでじがかけてうれしい。」という言葉が入っていた。
 こうした歩みは、彼女の成長の歩みともいえるかもしれないが、実は、それは、私たちの読み取りのテクニックの向上といった方が正確だろう。
 彼女の心の世界の奥底をかいま見るこんな文章も、最近は綴られれている。「ふしぎなえにかいてあったねがいごとに くやしいことやかなしいことはふしぎときえるし よろこびやたのしさはふしぎとながつずきするようにと。しらないひとがめのまえでいいました さみしいときにはよくほんをひらいてごらん きっとなにかきもちやからだにいいようなことがかいてあるにちがいありませんと。のはらにさいているはなのようにけだかくかわいくいきていきていきたいとおもいます。ゆっくりやればうまくいくとおもう。あせらずにいこう。」「ねがいはさみしがっているひとたちがわかりあえることです みんながしんにのぞめばできるとおもいます わたしかがみをみながらいのっています かがみのなかにはちいさなようせいがいて わたしのねがいをわかってくれます だからわたしはさみしくありません すきなかがみはにかいのきょうだいです(…)かがみはどれでもだいじょうぶです みたいところにはなかなかないけどあったらうれしいです すてきなかがみがほしいです」。容易に人に伝えられない心は、不思議なファンタジーの世界を作り、その中で、思いを様々に表現してきたということなのだろう。
 学校の先生も、見学にきておられた。彼女の思いに寄り添おうという人の輪は確実に広がっている。


2008年6月15日 00時25分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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