ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2009年06月26日(金)
七夕の願い
 今年度も青年学級の通常の学級活動が始まった。言葉の問題を真正面から取り上げた今年のわかそよは、無事成功させることができた。青年学級にパソコンを持ち込んで障害の重い人の言葉の世界が開かれて、ほぼ1年。いろいろなドラマがあったが、Sさんには、どうしてもきちんと迫りきれなかった。そのSさんと、久しぶりにゆっくり一日過ごすことができて、ついにSさんの気持ちに迫ることができた。
 Sさんは、自力で歩行もできる方だが、コミュニケーションが対へむずかしいとされた方で、行動の面でも、心を落ち着かせるためだと思われるが、ティッシュペーパーやペットボトルなどをとろうとして、周囲の状況にまるで関係がないようにそちらに向かって突進していくようなところがある方だ。彼から話を聞き取れた今となっては、それが必ずしも彼自身が納得して起こしている行動ではなく、勝手に体が動いてしまっていたわけだが、それらをすべて彼の意図と見なしていた時には、彼をどう理解したらいいのか、本当に途方にくれていた。
 私たちの関わりも、いきおい、彼の行動を止めることになりがちで、関係をうまくつくれないまま、ずいぶんと長い時間を過ごしてしまったように思う。
 そんなSさんに、今回は、手をとってあかさたなと尋ねていく方法で、コミュニケーションを図ってみた。すると、これまでのずれがうそのように、彼は、次々と気持ちを語っていった。その中で、くりかえし語られたのは、彼が以前通っていた通所施設にまた通いたいというものだった。実はその通所施設は今はもうない。なぜなら、彼が今通う施設は、その通所施設が、他の施設と合併して新たに生まれた施設だからだ。その以前の施設には、私も若干関係していたので、その施設のすばらしさ、そして、Sさんがその施設でどれだけ穏やかに過ごしていたかは、実際に目撃してきた。しかし、もうその施設が発展的に解消してから、もう何年も経過した。それでも、彼は、その以前の通所施設のことを語り続けたのだった。(残念ながら手で聞き取ったので、書き留めなかった部分は記録としては残っていない。)
 今回の活動は、作品つくりコースだったが、次回七夕が近いので、笹に願い事を書くということになったので、Sさんに願い事は何にするかと尋ねてみた。すると、さっそく、
「○○(かつての通所施設の名前)がわたしたちのためにまた始まりますように」という願いごとを書いた。
 ずっと言葉を語るチャンスを持たなかった彼が、長い沈黙の時間の中で、ずっと願い続けてきたことだったのだ。
 また、一つだけ、書き取った言葉がある。それは、Sさんに詩を書いてないか尋ねて答えたものである。それは、次のようなやさしい詩だった。

春の風が吹いてきて
ゆめがいっぱいふくらんだ
よい私のために 風が夢を運んでくれた
夢をかなえるために 私は勇気を出して
私のために夢を育ててきた
私の夢は私だけのもの
勇気を出して夢を育てよう
私の夢はよい夢
私の夢は私だけの夢
私の夢は私のゆいつのよりどころ
よい夢を育てて 夢をかなえよう
私の夢はよい夢 私の夢はよい夢
夢を育てて 夢をかなえよう

 帰りに迎えに来られたお母さんの前で、一緒に会話した。

母さん、いつもありがとう。母さん、やっと理解してくれる人が現れたよ。 

 突然のことにお母さんも驚かれていたが、彼の言葉を、しっかりと受け止めていただけた。
 今年は、たくさんSさんと語り合えそうだ。

 

2009年6月26日 06時26分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 青年学級 |
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