ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2009年08月14日(金)
一篇の詩と創世記
 駿河湾を震源地とした地震の2日後、静岡県に住む○○君のお宅を訪問した。高校1年生になった○○君は、もうすっかり、がっしりとした大人の体になっている。昨年、訪れた際に、書いてもらった文章に表れた彼の考えもすでにすっかり大人になっていたから、心も体もということになるだろう。
 そんな彼が、最初にふれたのは、地震の話題。

地震が強くて驚いておかあさんに恐ろしいと抱きついてしまい恥ずかしかったけど聞いていた東海地震ではなかったので安心しました。

とのこと。
その後、しばらく、スピードがあがった読み取りの方法の話題をした後、詩について尋ねてみた。すると、書けるということで、次の詩をさっと綴った。

きれいなずしいろの小さな小さな夢が
ぼくの以前の友だちによしなしごとのように広がって
願いが小さい小さい宇宙に望みとともにきらきらと
ぬくもりとともに広がった
人間として小さな不可思議な存在だけど
小さなころいつも願っていたことがついにかない
ぼくは自分の道を望み通りに生きていく
不思議な不思議なのりものが
小さいぼくの傷のように
瑠璃色の光を放ちながら
願いの小さなあかしのように
不思議ないのちをさとらせた。

 
不思議な詩だった。見守っておられたご両親は、その内容の深遠さに、ただただ驚いておられる。私も、改めて、彼の心がすっかり大人の世界に足を踏み入れていることを実感した。書いてもらった後、詩について若干のやりとりをした。

(ずしいろについて)知らないけど不思議な感じの色です。本です。ちがいます。夢のなかで読みました。すてきな話でした。(瑠璃色について)知っています。深い藍色です。テレビです。詩は自分の気持ちを落ち着かせるために作っています。苦しいときに作っています。そうです。

そして、そのまま話題は、仲間の話へと移っていく。

願いはともだちと話すことです。みんなもきっと話ができると思いますから残念です。理想は人間としてふつうに気持ちを言えるようになることです。いい人間になりたいです。最悪なのはぼくたちが言葉を持っていないと思われていることです。ぼくたちもふつうに考えていることを学校の先生たちに知ってもらいたいです。それだけが望みです。

また、漢字を覚えるのに相撲が一役買っているのではないかという質問に対しては、こう続けた。

すもうの雑誌が好きなのは勇気が出てくるからです。がんばっている力士の話が大好きです。たとえば願いのかなわなかった力士が望みを捨てずにがんばるところがいいです。

 ここで、話題は思いのままにならない体や声の問題に移っていった。

ぼくの体は勝手に反応してしまいとても困っています。小さいときからとてもいやでしたが、ぼくはなるべく力は入れないようにしています。望みは体が気持ちの通りに動くことですが夢みたいです。もし体が気持ちの通りに動いたらと何度も何度もくりかえし願ってきましたが理解してもらうしかないみたいです。いい人間になるためには体のことは関係ないのではないでしょうか。人間として人間らしい生き方をできたら、それ以上何が必要なのでしょうか。

意図に反して入ってしまう力のおかげで、誤解されることも多々あるらしい。そうしたつらい気持ちを小さい頃から抱えつつ、「理解してもらうしかない」「いい人間になるためには体のことは関係ない」というしっかりとした考えに到達していた。
さらに、彼は、次のような提案をした。

遠くから来てもらって申しわけありませんがもっと頻繁に来てもらえませんか。ぼくのともだちはまだ話すことができずに困っています。まだ話せずにいるともだちが気がかりです。もしできたら学校に来て言葉を聞いてあげて人間としての誇りを通りもどさせてあげてください。きっと話せると思います。運命かもしれませんが願いは願いとしてずっと持ち続けたいです。創世記という物語で理不尽な要求を神から言われて従う人のことが出てきますが、到底理解することはできません。自分たちはどうにもならないと考えたらそれでおしまいですから、願いは持ち続けたいです。人間として願いを大事に生きていきたいと思います。先日テレビでやっていました。不思議な話なのでまちがいではないかと思って気になっていました。



もっと足を運んでほしいという彼のまっとうな要求に、簡単に胸をはれないでいる私に対して、彼は、創世記の話を持ち出してきた。「神の理不尽な要求」と言えば、息子をいけにえに差し出せと言われ、それに従おうとしたアブラハムの物語だと思われる。彼は、自分たちが置かれた状況をそこに重ね合わせて、与えられた運命にただ従うだけの人生を生きるのはいやだと力強く宣言しているのだ。
この後、あまりにすごい内容に驚いている私たちに、説明をしてくれ、この日の関わりを終えた。

ずっと黙々と考えてきたのでわかります。ふだんからよく耳をすませて生きているので、聞きながらいろんなことを考えています。漢字はわかっています。理解できてもわかってもらえないのがくやしいです。つながることが大切だと思います。わかってくれる人がほしいです。望みは理解してくれる人が増えることです。未来に向かって理想的な世の中となるように願っています。よい時間を過ごさせていただいてありがとうございます。いいスイッチですね。ぬいぐるみの生活から解放してくれる理想のスイッチです。可能性を信じてくださってありがとうございます。ありがとうございました。

2009年8月14日 01時49分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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