ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2009年08月23日(日)
光道園にて その1 ゆこゆこ ろころこ むこむこ ころころ おんおん
 盲重複と呼ばれ、言葉がない、あるいは限られた言葉しか話すことができないとされている人たちの内面に、豊かな言葉の世界が広がっているということが、少しずつ明らかになってきたが、今回、福井県鯖江市の光道園を訪問し、もはやそれは、少なくとも私にとっては、動かしがたい事実となった。
 光道園の方々は、座位をとることなどには目立った困難はないので、いすに座り机に向かっていただく。そして、私は、その方と並んで座り、その方の右手に私の左手を下から添えて小さく振りながら、「あかさたな」と声を出していく。そうやって一つの音にたどりつくと、私は、あいている右手で、ノートに文字を書きとめる。このスタイルで、次々と言葉を聞き取っていくことができた。
 最初の方は、光道園に一緒に行った津布工さんが、かつて担任をしたAさんである。彼が、光道園に入所して10年近くになる。毎年、彼は、かつての担任の訪問を心待ちにし、満面に笑みを浮かべて学習に参加してきた。

 津布工先生、いつも待っています。人間だから、行き先を自分で決めたかったです。よい光道園で、よかったですけど、なかなか行き先が決まらず苦労しました。ぬいぐるみのような気持ちで生きてきましたのでうれしいです。未来が開けてきました。よいやり方ですね。きつい時期は思い出したくありません。よい毎日です。みんなやさしいです。よいところです。よいところです。みんな気持ちを言いたいと思いますので、聞いてあげてください。よいやり方ですね。

 彼には、実は、一時期とてもつらい日々があった。光道園を抜け出してさまよったこともある。そんな時期は思い出したくないといい、今はとてもいいと言う。
 ここで、好きな食べ物は? と質問をした。すると、質問に答えるような出だしで、まったくちがうことを語り始めた。


 好きな食べ物は、「ゆこゆこのむりを」ゆめみています。きらいな人が好きになる食べ物です。はい。ゆこゆこのむり。「ゆこゆこ」の「むり」の意味は、「ゆこゆこ」はみんな理解し合えるという意味です。理解し合えるということは、いいこと。「ろころこ」という言葉は理解してくださいということを意味しています。「むり」というのはむずかしいということです。自分で考えている言葉を伝えました。あります。「むこむこ」というのはくやしいということです。「むこむこ」という理解をしたいということはありません。

「ゆこゆこ」「ろころこ」「むこむこ」という不思議な言葉が語られた。彼自身が作った言葉で、自分の心の中で自分自身と対話する中で作られた言葉なのだろう。ここで、職員さんから、「やりたいことは?」という質問がかけられた。

 やりたいことはいつまでもよい光道園であってほしいということです。よい職員さんをやめさせないでください。願いは気持ちを伝えるこのやり方を職員さんにも教えてください。うれしいです。知っていました。夢みたいです。理解してもらえてうれしいです。気持ちを伝えたいと、「ころころ」思っていました。来る日も来る日もという意味です。よいやり方ですね。うれしいです。よろしく「おんおん」してください。「おんおん」という意味は願いをかけるという意味です。よろしく「おんおん」をしてください。
 
 彼が返した答えは、やりたいことではなく、ずっとよい施設であってほしいという願いであった。そして、「ころころ」「おんおん」という言葉が続く。来る日も来る日も、願いをかけるという言葉が、思わず胸をしめつける。
 そして、彼は津布久さんとの学習に移る。

 津布工先生を待っていましたから、楽しみです。

 私は最後に、彼が盲学校に在学中、彼と一緒に森林公園というところでマラソンをしたことを覚えているかと尋ねた。

 なつかしいです。よい思い出です。

 覚えていてくれたんだという思いが、私の胸を熱くさせた。

 


2009年8月23日 18時28分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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