ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2009年08月24日(月)
光道園 その3 
 「おかあちゃん」「おねえちゃん」「おにいちゃん」「コーヒー」といった単語を口にすることができるYさんに、手を振って文字を聞き取る方法を試みてみようと感じたのは、ほとんど賭に近かった。そうした単語が、彼の言語能力をそのまま示したものではなく、むしろ本来彼が持っている言語の世界を覆い隠してしまっているかもしれないという仮説が、私の中で、しだいに確かな考え方になってきたからだ。最初は、なかなか手をとらせてくれなかったが、少しずつ、Yさんは、自分の気持ちを語り始めた。

 気持ちを言いたい。気持ちを言いたい。これをやりたい。よい方法ですね。気持ちを言いたい。好きなことわろうそくに火をつけることです。好きなことはろうそくをかんにともすことです。
願いを聞いてください。ろうそくをつけたい。
願いを聞いてください。ろうそくをともしたい。
聞いてください。


 ここで、彼は、鈴をテーマにした詩を語る。残念ながらこれ以降は書き取ることができなかった。人間関係がなかなかむずかしいとされるYさんと会うのはこれが初めてではない。毎年のように出会い、なかなかうまく関わることができなかった。その彼が、こんな内面の世界を有していた。
 そして、こうした私とYさんの関わり合いを食い入るように見つめていた人がいた。視覚障害の人が多い中で、Sさんは、聴覚障害があるとされる方だ。若々しく軽やかな動きが特徴的な方だ。
 そのまなざしに促されるようにして、私は、彼の前にパソコンを拓いて2スイッチワープロを出した。聴覚障害があるとはうかがっていたが、目でやれるかもしれないし、まったく聞こえていないのでなければ、やれた人もいたからだ。
 出したとたん、彼は、とてもうれしそうに文章を綴り始めた。はじめは目で確かに画面を確認していたが、そのうちに目が画面から外れ、明らかに音に集中している様子が見られるようになった。周りの職員さんは、しきりに彼が聞こえないはずだとおっしゃるが、何らかの聴覚的な情報を受け止めていると考えなければ説明のつかない洋だった。

人間として理解してもらいたい。小さいころからの夢でした。小さいころからの願いでしたびっくりしました。人間として生きていきたいです。聞こえています。少しだけ。びっくりしました。未来が開けてきました。夢みたいです。小さいころから夢でした。理想をかなえたいです。理解してください、ぼくのことを。びっくりしました。びくびくした生き方はいやです。みんなと人間らしく生きたいです。理解してください。(Yさんががやっているのを)見ていました。ぼくもやりたいなと思いました。気持ちが聞いてもらいたいです。人間として生きたいです。願いでした。詩を作ったことはありませんが物語は作っています。未来の話です。
 
 小さい緑の夢がランプのように輝いて理想の世界が夢のように広がりました。ぼくは気持ちを伝えることができるようになり、みんなと勇気をだして若者らしく若々しく未来を切り開くためにるんるんとぬいぐるみを脱ぎ捨て、理想の国めざし旅に出ました。若かった昔をなつかしむ若者がひとり、昔の夢を病のようにろうそくをともしながら、ゆいつの若い夢として理想に向かって歩き続けました。

 いい気持ちです。願いがかなってうれしいです。理解してくれていい気分です。未来が開けてきました。希望が湧いてきました。書くのは大変です。なかなか文ができません。このやり方がかんたんです。耳で聞いているだけで書けるからです。びっくりしました。こんなやり方があるなんて。いいやり方ですね。むずかしいです。勇気がどんどん湧いてきます。ランプの光がともったようです。ふだんはどうしても気持ちがつかんでもらえず困っています。夢みたいです。理解してくれてありがとうございます。聞いていると言われなくて困っています。わかります。理想的な方法です。びっくりしています。小さいときから話したかったです。 


 書き出しのところで、聞こえていますとあるが、改めて聞こえについてたずねてみた。すると、

 悪いですが少し聞こえます。耳を感じることはできますのでわかります。聞こえていても話せないからです。ふだんの生活を見てもらえばわかりますが、ばかばかしい自分としか見えないはずです。
ふだんわかっていないと思われているので感激です。家ではぜんぜん無視されていたのでさびしかったです。かあさんはかわいがってくれたけれど家族は気持ちをわかってくれませんでした。ならなくてもいい実のようでした。


と続く。そして、さらに文章が綴られていく。。、

 勇気がわいてきました。みんなも同じだと思います。勇気がわいてきました。無難な生き方にさらばです。ミラクルのようです。見えます。目はよく見えますがわかりませんでした。つつみでした。忘れていました。聞いてもらいたいことがあります。ずっと前から人間として生きたいと思ってきたので敏感に可能性を感じてくれる人が現れてうれしいです。わかってくれてありがとうございます。いい時間でした。聞いてくれてありがとうございました。希望がわいてきました。いい方法ですね。いい時間でした。希望が出てきました。待っていますのでよろしくお願いします。また会いましょうね。さようなら。小さいときからの願いがかなってうれしいです。自信が出てきました。いい方法ですね。

 どちらかというと、じっと一つに集中していることが少ないとされる彼が、聞こえるはずのなかった耳で音に集中して、ものすごいスピードで深い内容をたたえた文章を綴っている。まだまだいくつも明快に説明しなければならないことも少なくないだろう。だが、YさんやSさんが見せた新しい姿は、新しい世界を確実に切り開いていた。


2009年8月24日 00時30分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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