勇気をもって暗闇から抜け出そう ある視覚障害の少年の「講義」
ある盲学校でのこと。昨年度訪問した際に手を振って言葉を聞き取ることができた少年がおり、今年度の訪問でもまた、言葉をやりとりすることができた。それを受け、夏休み、その少年に来てもらって、彼の気持ちを改めてゆっくりと聞くという会がもたれた。なお、彼は現在中学1年生である。
柴田先生とこれから気持ちを伝えるこのやり方について講義をしますのでよろしくお願いします。特に気持ちを伝えたいのは、よい×××(学校名)になってほしいからです。特に中学校に六年からなってから、幼稚部を×××に連れてきてもらって夢のようによい関わりをしてもらって×××のことが大好きなよい子どもでしたが、中学校になってから、とても勇気がなくなってしまいました。勇気がなくなってしまったのは、ぼくの気持ちをいつになってもわかってもらうことができそうもないような気がしてきたからです。勇気が出てきました。ようやく気持ちを少しづつようやく伝えられそうな気持ちがしてきました。このやり方を先生たちにもたくさん伝えてこのやり方をみんながたくさんできるように、理解してもらおうと思います。よろしくお願いします。
10名あまり集まった先生方の前で、彼は、堂々と話し始めた。ここで、少し、彼に私からの質問を交えて話を続けてもらった。
(口で話すのはむずかしいですか?)
ことばを話したくてもなかなか言葉を口で言うことができません。願いを言葉で気持ちを言えるようになることでしたが、このままではとうていむずかしそうです。
(机をたたく理由を聞いてもいいですか。)
はい。気持ちを口で言えないので、むしゃくしゃしてしまい、たたいてしまいます。
(止めようと思えば止められますか?)
止められます。もっと気持ちを伝えたいです。口で言えないことがいちばんつらいです。
(助詞の「は」を使えるのはどうしてですか?)
わかっています。なとく(納得)しているわけではないけれど、何となく知っています。
(点字の勉強についてはどう思っていますか?)
点字を読めるようになりたいです。このごろ点字のことがようやくわかるようになってきので、とてもすばらしいと思っています。勇気が出てきました。よい先生たちなので、よいやり方でわかるように、わかりやすく教えてくれているので安心しています。よい先生たちなので、よく教えてくれていますので、安心しています。
(算数はどうですか?)
算数の勉強もよく教えてくれています。
(答えながら指を口に入れてすっていたので理由を尋ねると)
つらいことを思い出しています。よい先生たちなので、わかりやすいです。
(つらいことって何ですか。)
それは内緒です。
(詩を作ったことはありますか?)
あります。勇気をもらうために、子どもの頃から詩を作っています。
(今、聞かせてもらってもいいですか?)
はい。
勉強への思いや先生方への感謝の言葉、そして、内緒にしておきたいつらい気持ち。詩は、そんな彼の胸の奥底を伝えるものだっ
もう聞かないでください
この世界はとても暗くて
少しもわたしのことを暗闇から解き放ってくれそうもありません
暗闇こそ瑠璃色の紺のわたしの希望をろうそくの光として
暗闇こんんんこんんんこんんんの暗い昔の勇気のない暗闇こそ
暗闇をのがれようとして 海をめざして
暗闇からわかれたくて
暗闇の中で暗闇をみんなからなくすことができたらいいなと
このぼくがもともと夢見たものだ
勇気をもって暗闇から抜け出そう
この暗闇を 夢とともに 野を行く旅人のように
気持ちをこうこうとたきながら 抜け出してゆこう
勇気をもって暗闇から抜け出して
暗闇から抜け出して
暗闇の向こうの明るい世界をこの手につかもう
繰り返される暗闇という言葉に、その場のものはみんな圧倒される。言葉が思いところでは、体もまた重く沈み込むようになり、そして、最後は、再びぐっと顔を持ち上げて、まるで未来に向かって力強く身構えるようだった。
わかってくれてうれしいです。暗闇のことをいつも考えていますから作りました。暗闇は望みをみんな飲み込んでしまいます。勇気をもってこの暗闇から抜け出したいです。うれしいです。わかってもらえて。暗闇は暗い暗い暗い暗いものです。勇気が必要です。うれしいです。気持ちを聞いてもらえて。
そして、もう一つの詩を聞かせてくれた。
明るい詩もあります。
きれいなすてきな雲が
空を 暗い空を明るくするために
すてきな色の雲を
こんんんこんんんこんんんこんんんわきあがらせて
暗い空を明るくしてくれた
きれいなすてきな雲が
空を 暗い空を明るくするために
すてきな色の雲を
こんんんこんんんこんんんこんんんわきあがらせて
暗い空を明るくしてくれた
わたしは雲に乗り
空をかけめぐり
わたしの希望をかなえるために
雲を夢のような色に変え
雲を夢のような雲に変え
暗い空を明るく変えて
暗い空を感動的な空に変える
夢を見たいと思って作りました。歌ではありません。詩です。こんんんというのはこんこんをもっともっと暗くする音です。
こんこんをもっともっと暗くする音としてこんんんこんんんこんんんという音があるのだという。彼の心の深いところにある悲しみが、この音には込められているような気がした。
ここで、二つの質問をした。どうやって文字を選んでいるのかということと、詩に登場する色は、彼に見えるのかということである。
耳を集中させて音を聞いてそこそこだと思っていると読み取られていきます。苦労していますが、言葉を少しでもさくさく出すためにがんばっています。聞いているので疲れますが、考えていることがすらすら言えるのでうれしいです。
色を苦労して覚えました。苦労したのは、見えないので、想像してよく考えて、色を想像しました。
苦労したことはあまり言いたくありません。苦労したことを取り立てて言ってみてもよい苦労にあこがれているわけではありませんから、苦労の話をするのは好きではありません。勇気を出して話してみましたが、わかってもらえたでしょうか。
そして、私がゆっくりと手を振ってこの方法をわかりやすく伝えようとした時、彼は、次の言葉を伝えてきた。
のにさくはな 単語を言ってみました。
ここで、誰か先生とやってみないかと彼に尋ねたところ、彼は恥ずかしそうに、一人の先生を希望する。しかし、なぜか、名前が出てこない。以下は、何とかしてその先生がだれであるかを伝えようとしてきたものである。
姉さんのような先生の、感じがすてきな先生がいいです。かわいい先生、かわいい先生です。名前を言うことができません。苦しい時に助けてくれる先生です。とてもやさしい先生です。夢をいっぱいくれる先生です。この中にいます。はい、まだわかりません。この中のよい声の先生です。すてきな先生です。とてもいい先生です。名前はむずかしです。夢をともに見てくれる先生です。小学部。幼稚部ではありません。世界の歴史の先生。
ここで、ようやく一人の先生が特定された。
☆☆先生だということを思い出しました。
名前をなぜ言えなかったか、それは、多くの人に共通の現象としてある。まだ、その理由はわからないが、かえって、その先生へ寄せる思いの深さが、讃辞とともに明らかとなった。
あっという間に、2時間が過ぎていた。彼の「講義」は盛況のうちに幕を閉じた。
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2009年8月26日 14時21分
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