ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2009年10月04日(日)
言葉を越えるもの
病棟で、最近一人の友を失った☆☆さんは、9月、ずっと、そのことを悩み続けていた。訪問学級の担任先生と、手を振ることで行われる会話は、ずっと友の死を悲しむものばかり。そんな9月の終わりに、私は、☆☆さんのもとを訪問した。この病室には、ずっと入院を続ける中3の☆☆さんと小3の○○君とがいるが、その部屋に、新年度になってから、一人仲間が増えた。女の子だったが、その子が、7月に亡くなったのだ。
☆☆さんは、この日、まず次のように語り始めた。

こんにちわ、ずっと待っていました。問題は、もう一度死んだ友だちに会えるのかどうかということです。理解してはいますが、よい心と悪い心が本当の私をよくわからなくしてしまいます。理想の考えは、よい心の時に私に訪れてくるのですが、悪い心はなかなか私に理想の考えを見せてはくれません。友だちの死は、この上ない悲しみを私にもたらしますが、私はなかなか悲しみから解放されません。よい考えを知りたいです。よい考えを聞きたいです。よい考えは今学期のうちに私は知りたいです。願いは、野をわたる風のように、私も澄んだ気持ちで願いを持ち、瑠璃色の澄んだ心で私を見つめて、この悲しみから抜け出したいと思いますが、ろうそくのほのおが消えそうになるのが怖いです。よい考えを知りたいです。よい考えを聞きたいです。理想の考えを知りたいです。理想の考えを聞きたいです。
 私は空の上で◇◇ちゃんが泣いていると思うので、悲しみが止まりません。この気持ちを取り除くには、どうしたらいいのでしょうか。教えてください。この気持ちをどうすればいいのでしょうか。理解しているのですが、なかなか問題は解決しません


 友を失った悲しみが大きいということはわかる。だが、いったい、その悲しみの裏にはどのような思いが隠されているのだろうか。それを知りたくて、☆☆さんと様々なやりとりをしていった。

(柴田:どうして◇◇ちゃんが空の上で泣いていると思うの?)

◇◇ちゃんはろうそくの炎がまだまだ燃えられるのに消えてしまったようなもので、悲しがっています。私の考えはおかしいですか?

(柴田:別におかしいとは思いません。この問題は、誰も答えがわからないので、とてもむずかしいのだけど、確かに、まだ燃えられるのに途中で消えてしまったというのは、ぼくもそう思うけど、でも、別の考えもあって、本人からの見方をすれば、まだまだ燃えられるように思うけど、別の見方をすれば、全部燃え尽きたという人もいる。空の上で◇◇ちゃんがどう思っているかは、もっとむずかしいことで、もう誰にもわからないことだと思う。でも、もし、今、◇◇ちゃんが空の上から見ているとしたら、悲しんでいるかどうかわからない。それは、生きている時の感じ方で、空の上ではまるでちがう感じ方をしているかもしれない。そのまま、悲しみをひきずったままというこはないかもしれない。神さまを信じる人は、魂は救われるっていう。魂は悲しんでいないと。)

 その考えは、私も考えました。が、望みをかなえられなかった、◇◇ちゃんは言葉を語ることができませんでした。望みはかなわなかったと思います。私のかなった望みを◇◇ちゃんにも感じてほしかった。だけど感じることができないまま死んでしまったことが残念です。

 どうやら、☆☆さんの悲しみがいつまでも癒えないのは、自分が話すことによって得た喜びを◇◇さんが、感じることのないままに亡くなってしまったことへの深い思いがあるらしいことがわかってきた。同じ病室にいたのだから、もうあと一歩で◇◇さんは望みをかなえられたのにという、切実な思いがするのだろう。その思いをかなえさせてあげられなかったのは、誰のせいでもない、私自身である。人間関係を作ってからゆっくりそういう機会を作っていこうなどと、悠長なことを考えていたから間に合うことができなかったのだから。ただ、私は、◇◇さんがこの部屋に移ってきてから、この病室の3人の間に、様々な心の交流が生まれていたことをうかがっていた。確かに◇◇さんは、言葉を表現はしなかったかもしれないが、大切な時間がこの病室の中を流れていたはずだった。

(柴田:この部屋にきて感じられるものもあったのではないか。)

私の言葉を伝えることができて、◇◇ちゃんもうれしかったと思います。

(柴田:☆☆さんの言葉をM先生が伝えてくれたってこと?)

そうです。

(柴田:◇◇ちゃんの言葉は聞けなかったけど、◇◇さんは、仲間のつながりの中にいたんじゃないかな。)

はい、そんなふうに気持ちを伝え合っていましたからうれしかったです。勇気をもらいました。散歩にも行きました。よい時間を過ごしました。それがいい感じでした。心に残る思い出です。

(柴田:今、☆☆さんたちの言葉を読み取れる人は、やる人が真剣で。まだだれていないところがある。だけどみんなが使い始めたとき、ただしゃべればいいかというと、当たり前になるとあんまり大切じゃないことにも使われるかもしれない。最後に残るものは、何かというと、とっても大切なものがあるはず。◇◇ちゃんはしゃべれなかったけれど、☆☆ちゃんとの間に、その大切なものが流れていたんじゃないか。例えば、この言葉を聞き取る方法でお金もうけしようとしたら、☆☆さんの大事なものなんかどうでもよくなってしまうはず。だから、言葉よりも大切なことがあるということ。◇◇さんとの間に、言葉よりも大事なものがあったということでしょう。)

 わかります。願いでしたから、言葉を話すことが。だから私は話せてうれしかったです。よいやり方に出会えてよかったと思います。それだけが、心残りです。私と過ごした時間は大切に思います。それだけが心残りです。私と過ごした時間は大切に思います。勇気が湧いてきました。もう悲しく泣いてばかりいるのは終わりにしたいと思います。素直な気持ちで生きていきたいと思います。勇気が湧いてきました。理解してくださってありがとうございました。よいやり方ですね。そう思いますが、もっと大切なものがあるとわかりました。もっとよい心になることこそ大切だということがわかりました。よい心はもう私にはなくなってしまったかもしれませんが、まだ、よい心を持ち続けられるようにがんばりたいと思います。よいやり方ですが、心の方が大切です。
 心をそっと願いの風にのせて、空高く舞い上がらせたいです。心を舞い上がらせたいです。勇気が湧いてきました。理解してくれてありがとうございます。うれしかったです。よい心の方が大切です。そのことを理解して、いい空の風になりたいです。よいやり方ですが、心の方が大切です。そのことを理解して、この人生を生きていきたいと思います。


 言葉を話せたらそれはとてもすばらしいことだろう。そして、一人でも多くの人のが言葉を表現することができるように、一歩でも前に進んでいくことが、私に与えられた使命でもある。だが、言葉よりも大切なことがある。それを決して忘れてはいけない。私は、確かに、一つの方法を手に入れた。しかしやはりそれは「方法」である。方法は、時には本当の目的を見失わせてしまうこともあるし、形骸化し、堕落することもある。
 亡くなった友と☆☆さんとの間に流れていたもの。そのことに対する感性を失ってしまったら、私たちの仕事は、本末転倒のものとなる。


2009年10月4日 22時02分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 小児科病棟 |
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