ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2010年01月01日(金)
ろうそくの火
 盲重複障害者と呼ばれる女性、☆☆さんとパソコンをはさんで関わった。彼女のことは、以前から知っていたがゆっくり関わるのは初めてだった。

 いい気持ち。気持ちが言いたいけどなかなか言えなくて困っています。小さいときから気持ち言いたいと思ってきました。すてきなやりかたですね。うれしいです。信じられませんが私の言葉なので信じないわけにわいきません。自分の気持ちが言えたらいいと思ってきましたからうれしいです。みんなと話がしたいです。夢みたいです。夢を見ているような気分です。希望が湧いてきました。もう少し早くこのやり方に会いたかったです。

 「もう少し早くこのやり方に会いたかった」という言葉が、胸にささる。様々なことがきちんとできて言葉も話すことのできる☆☆さんのような方が、こうした気持ちを言葉に表現できずにいるということに気づいたのは、ほんの1年ほど前のことだから、どうしようもなかったことなのだが、こうした言葉を彼女の後輩たちには言わせてはならないと、改めて思う。まだまだ、それも容易ではないが、過渡期とばかり言ってもいられない。
 ここで、いくつか彼女に質問を投げかけて見た。これだけの思いを綴る彼女の行動の意味をたずねてみくなたからだ。

(点字の学習の時、リベットを投げたりするのはどうしえですか?)

くやしいからです。

 うまくできなことへの悔しさという感情がこうした行為の背景にあるということは、なかなか気づかれにくい。たいていは、いやがっていると怒っていると、関わり手へ直接気持ちをぶつけているととられてしまう。しかし、この行為は彼女の、誇り高さの表れにほかならないのである。そして、さらにこう続く。

私のことをなかなかみんながわかってくれないので悲しいです。本当はなんでも理解できているのに言葉がうまく話せないで困っています。望みは理解してもらってみんなと仲良くすることです。私をわかってくれるのはおかあさんだけです。なかなか理解されないで悲しいです。わかってほしいです。

 そして、話は、言葉を読みとる方法に及ぶ。

不思議です。なぜわかるのですか。
(次の文字を思い浮かべていてここだと思っているでしょう?)

はい。思っています。なぜだかわかりませんがほんとうの気持ちです。

 そして、パソコンで文字を綴りながら、一見関係のない言葉を発し続けていることについて、尋ねてみた。

言葉は勝手に出てくるので気持ちを言うことができません。勝手に出てきます。よくわかりませんが勝手に動きます。

 このことがどれだけ彼女を誤解させてきたか、その悔しさは想像にあまりある。ここで、話を切り替えた。

(詩を作ったことはありますか?)

 あります。「ろうそくのひ」という詩です。

ろうそくのあかりを求めて 私は生きる
誰も知らない森の奥で
緑を私が(緑が私を?)やさしく包み
私は呼んだろうそくの火を
緑は目の前の理想の私
緑は私の生きる希望
夢の世界の私のろうそくの火よ
ろうそくのあかりがつないでくれた未来の私に
私は心をつなぐ

 これでおしまいです。一人の時に作りました。理解してくれてうれしいです。
 歌も作っています。「私のろうそく」という歌です。

ろうそくのあかりが私をてらす
夢のような緑の森で
私は理想のろうそくを
人間としての心をもった
私のろうそくの私のあかし
理想をなかなかかなえられずに
私は呼んだ 私のろうそく
私は生きる 緑の森で
未来の私を夢見つつ



 「私のろうそく」という歌です。いい歌ですから聞いてもらいたいです。私の歌を聞いてもらえるとは思いませんでした。みんなも作っているのですか。夢のようです。不思議です。信じられませんが、信じないわけにはいきません。私の歌を聞いてどうでしたか。
 

 時間がせまってきたこと彼女に告げると、最後にこう綴った。  

 面倒ばかりおかあさんにかけているので申しわけないです。はい。小さいときからの夢がかなってうれしいです。

 あとで、お母さんがろうそくについて語ってくださった。もともと視覚障害のある☆☆さんは、それでも、幼い時、ろうそくの火だけは見えていたそうだ。その火もいつか見えなくなって長い時間が過ぎたけれど、きっと彼女には、その記憶が大切に残されているのではないかと。
  

2010年1月1日 17時29分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 自主グループ(視覚障害) |
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