ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2010年03月08日(月)
自尊心さえあれば体をコントロールできる
「勝手に体が動く」という言葉を聞き取ることができてから、私は障害のある方に対する理解の仕方を大きく変更せざるをえなくなった。
 コードや紐が好きで、すぐに手を伸ばしてしまうというようなこと、自分で体をたたき続ける自傷行為と呼ばれるもの、となりの人の食事に手を伸ばしてしまうというようなこと、こうしたことは、どれも本人の意志があるのだから、それをできる限り尊重するということを大切にしてきた。それが、勝手に体が動くと本人自身は感じているというのは、想定を越えていたものだった。もちろん、勝手に体が動くとしても、そういう動きがなぜ生まれるのかという意味を考える必要はあるのだが、勝手に体が動いているという理解をそこに介在させることで、それらの見方は大きく変わった。本当の意志は目の前の行動とはまた別のところにある場合があり、そうした行動は本人自身を困らせるものでもありうるということなのだ。
 私たちが何かルールを逸脱した行為をした時に、勝手に体が動いたというとあまりにも都合のいい言い訳になってしまう。しかし、本当にそういうことがありうるのだ。
 最近、知的障害と言われる人が、小さな事件を起こした。障害があるということに対して理解が得られたので、特に大騒ぎにもならなかったのだが、残念ながらその理解は、その人に判断能力が欠如しているという理解だったことになる。しかし、彼は、見かけに反して、パソコンでは気持ちをたくさん綴ることができるし、当然、ものごとの善し悪しの判断はついている。それでも、自分をコントロールできなかったのだ。これだけでは、単純に勝手に体が動いたとは言い切れないし、もっと私たち自身が誘惑に負けてルールを逸脱した行動をする場合と同様に考えることもできるかもしれない。そこは、これからていねいに考えていかなければいけないことだが、私は、彼にできるだけ真正面から向かい合おうと考え、そのできごとについて2回にわたって、いつも行く居酒屋で、彼自身の説明を求めた。その文章の中に、非常に深く考えさせられる言葉があったのである。

 自尊心があるので○○○わけにはいきませんが、人間としていい人生を生きたいのでできれば自分でくぐりぬけたいです。小さいときから言いたいことが言えたらいいと思ってきましたがつらいことばかりです。願いはみんなと気持ちをかわしあえることですがなかなかうまくいきません。自分でもコントロールできませんがなぜできないのかわかりません。いい自分になりたいけどなかなかむずかしいです。自分の気持ちが言えたらいいけれど人間として認められないと自尊心がずたずたになりそうです。コントロールできなくて悲しいけど人間として自尊心を大切に生きていきたいのでもう○○○することはやめたいです。はい人間として生きていきたいのでわかりました。人生を自分らしく生きていきたいと0思うのでよろしくお願いします。

自分のしたことにはすまないことをしたと思っています。人間あつかいしてほしいといつも思っているので悲しいです。人にはなかなかわかってもらえなくてむしゃくしゃしたから行きました。○○○がわかってくれなかったからです。考えたことを否定された。ぼくがせっかく考えたことを否定された。人生ということを探したいといったのに取り上げてもらえなかった。(…)はい、自分の気持ちが混沌としているからです。地域で生きていきたいので勇気がほしいです。かあさんやとうさんがだんだんとしをとってきたからです。むずかしいですひとりでくらすのは。自尊心さえあればぼくも体をコントロールできるとおもいます


 体のコントロールと自尊心とが深く結びついているということは、考えてみれば当たり前のことだ。自分自身を大切に思う心があれば、人間は悪いことをしたりはしない。彼は、おそらく、30年間の人生で、いい家族に囲まれ、大切にされながら育ってきた。しかし、決定的に社会は、彼を、これだけのことを考える人間だとは見なしてこなかった。私だって、こうして彼がパソコンで文章を綴る姿を目の当たりにするまでは、そのように見てこなかった。もちろん彼を大切に考えてきたことはまちがいない。しかし、見かけの姿から彼をとらえ、本当の思いを十分に知ることはできなかったのだ。そんな中で彼の自尊心はずたずたにならざるをえなかったのではないだろうか。「自尊心さえあれば体をコントロールできる」という言葉は、彼らがまだ、偏見と差別の中を生きざるをえない現在の状況を悲しく訴えている言葉なのだ。


2010年3月8日 13時19分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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