ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2010年08月27日(金)
中途障害の方との経験
この3か月の間に、通常の社会生活を送っていて、脳内出血や若年性のアルツハイマーなどによって言語表現が困難になった3人の方とお会いした。障害の状況はそれぞれ異なるが、みんなそれぞれに重い後遺症をかかえていて、家庭でのケアは容易ではない状態にあった。そういう方々に対して、これまでの私たちの方法が有効かどうか、おそらく議論のわかれることだろう。しかし、みんな、表現できなくても言葉の世界を有しており、こうした問題について、私たちの常識の見直しが必要であろうことはもはや疑いの余地はない。ここでは、それぞれの気持ちをそのまま紹介しておきたいと思う。

Aさん(脳内出血)
 こんにちわいいやりかたですね。言いたい、おとうさんにありがとうと。私寝たきりになってから毎日不安でしたが、おとうさんが毎日来て受け答えをしてくれたので、なんで一人の私なのにこんなに寂しくないのだろうと、しあわせにいつも満たされています。小さいときからずっといいおとうさんだったけれど、みんながこうして集まってくれてこんなに恵まれていてなんだか夢のようです。苦悶してきましたがなかなかわかりませんでした。聞いてほしいことがあります。じっとしているとぬいぐるみのいのちのようでつまらないので、時々なんでもいいから小さな物語でも聞かせてください。はい。なんでもいいです。人間だから時間がこうして流れていけばしあわせです。信じられません。なぜ聞き取れるのですか。願いは小さくても本当のいい時間が過ごせることです。暑いのは苦手ですが 外は好きですので今度また涼しくなったらお願いします。テレビは聞いているので必要です。
 はい。反応が出せませんが笑っています。子どもの時から見ていたので大好きです。疲れるのはつらいことがあるときです。なかなか伝えられないので夢のようです。群青色のあかりが見えるようです。希望が見えるようです。とてもありがたいです。だけど悩みはその苦労にこたえられないことです。いいかただからすまない気持ちでいっぱいです。つばはくるしい。



Bさん(若年性のアルツハイマー)
 いい機械ですね。ぎちぎちとしめつけられるような気持ちですが人間として認められたような気分です。地域の生活を理想としていますがなかなかむずかしいです。小さい冒険だけどみんなでわたしの家に行ってみたいです。私の家は留守番の人もいなくて私の帰りを待っています。夢によく出てきますが私の家は今どうなっているのでしょうか。理解できなくなって家にいられなくなって悲しいですが泣くこともできなくなってしまいましたからさびしいです。理解するのがむずかしいのは環境の認知などです。困っています。時々何を言われているのかわからなくなります。困っています。したいことがなんだかわからなくなります。理解していても話せなくて困っています。はい、なかなか話せないですがよくわかっています。記憶もなかなかむずかしいですが何とかなっています。
(50音表の文字盤を出すと一人ではただ指が順番に「あいうえおかきくけこ」と流れるようにたどるばかりでさせなかったが、手をそえてあげると名前を指せた。)
はい、文字盤はむずかしいけどなぜ指差せたのでしょう。
(ペンを握らせて手を添えると名前の漢字1文字が書けた。)
はい。はい、とても不思議でした。なんで書けたのですか。(生きた字所はどっちと)尋ねて紙に「店」と「家」の文字を書くと「家」を指した。)
 大好きな私の家に行きたい。不思議です、書けました。不思議です。もうわからなくなったと思っていましたから感激です。なぜ読めたのか不思議ですが読めました。私はもうだめかと思っていたのでとてもうれしいです。私をよく理解してくれてありがとうございました。悩みが晴れました。どうもありがとうございました。


Cさん(脳内出血)
 気持ちが言えてうれしい。なぜ背をたたくだけでなぜわかるの。
 疑問に悩んでいます。薬すこしやめたいです。私をわからなくさせているみたいです。私の気持ちを聞いてもらえるとは思わなかったのでうれしい。○○○(息子さん)をもっとかわいがりたいけどできなくて、許してほしい。人間そんなには長生きはできないけどまだまだ○○○が小さいので望みはもっと長生きすることです。○○○をもっとかわいがらないといけないのに許してほしい。
 願いは私の△△の家で一緒に暮らすことですがむずかしいので理想のまた理想は私の胸にしまっておいてここでがんばります。小さい願いですが、夢ですがなにか楽しみがほしいです。夕方になるととてもさびしいので忘れたいことを思い出してしまいます。×××や年齢はわからない人が私を笑いにくるような気がします。私の若いころのいい理解者が笑っているような気がします。
 にれの花を見たいと思います。昔歌でいい花と聞いていたので。にれも夢で見ます。にれの花それはぜひ見たいです。私の夢の中では白い可憐な花です。頼みます。唯一の夢です。
 不思議です。言葉がすらすら出てきて。いつもはなかなか出てこない。
(話そうとすると混乱してしまうのですか。)はいそうです。混乱してしまいます。

 昨年の夏、金沢で著名な山元加津子先生が献身的に看病を続けておられる宮田さんにお会いした。非常に重度な脳血管障害の後遺症の方に言葉の読み取りを試みるのは初めての経験だった。それから1年が過ぎ少しずつだが、こうした方々との出会いが始まったところである。

2010年8月27日 19時51分 | 記事へ |
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