ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2011年02月19日(土)
☆☆さんとの再会と新しい出会い
 小学生のころ、初めて私とパソコンで言葉をつづった☆☆さんと、ある地方の都市で再会した。私が長年お世話になってきた先生の退職にかかわるあるパーティーの会場だった。会場には先生のゆかりの方々がおおぜい見えていたが、その中には先生にお世話になった何名かの障害のある方々が見えていた。みんな幼少期に先生に出会い、すでに大きくなっている方々だ。
 ☆☆さんの言葉については、私はきっかけを作ったに過ぎなかったが、彼女をとりまく先生方やご家族の努力で、彼女はパソコンから援助による筆談の方法に移行して、母親や教師たちとの会話が可能になり、無事、中学部を卒業して、高等部は、受験をして一般の高校生と同じ教科学習を行っているコースに合格し、勉強を続けている。彼女の希望は、地元の大学に進学することだ。もちろん、独力で表現ができないため、予想されるハードルは決して低くはないが、少なくともそのハードルを越えるための挑戦が始まっているということ自体がとてもすばらしいことだ。
 私は自分の手を振りながら「あかさたな」と聞いていく方法で再会した彼女と会話した。パソコンを使わずに速いスピード読みとっていく方法の進化には目を丸くしていたが、何年ぶりかの再会を喜んでくれ、現在の状況などたくさんの会話をすることができた。
 その会話の中で、私たちのそばの少年が同じ学校の1歳年下の友人○○君であることがわかった。私は、何年か前に養護学校で彼にあったことがあるような気がしていたのだが、その時には言葉を引き出せたわけではなかった。ただ、今回はもはや彼に言葉があることを疑う余地はなかった。☆☆さんに彼のことをいろいろ尋ねると、もちろん彼にも言葉があると思っているという。そして、それに併せて、私と会って以降、☆☆さんは言葉がある子どもとしていろいろと特別に手厚く扱われてきたけれど、本当はみんな同じなのにという気持ちを伝えてきた。
 私はひとつ提案をした。私の方法は、今仮にうまく彼と話せても今夜限りのものになってしまうので、お母さんが☆☆さんにやっている筆談を○○君にやってみたらと思うのだが、それをお母さんに提案していいだろうかということだった。☆☆さんの目はきらりと輝いた。お母さんがほかの人の通訳ができるなんて考えてみたこともなかったけれど、ぜひやってもらいたいというものだった。そしてそのまま、お母さんに事情を説明した。お母さんは、まさか私ができるのでしょうかと大変驚いておられたが、私が勧めると引き受けてくださった。
 そして、○○君の元へ向かった。いきなりやってきた私に○○君もお母さんも驚いていたが、お母さんも彼がいろいろなことを考えているということはわかっているということだったので、さっそく彼の言葉を聞き取ってみた。彼は突然のできごとに大変驚いていたが、☆☆さんのようにいつか自分も話せたらと思い続けていたとのことで、ようやくその日が訪れたことに満面の笑みとともに喜びを表現した。そして、☆☆さんも特別な扱いを受けていることに胸を痛めていることはわかっていたということも語った。
 そして、実は、☆☆さんのお母さんなら、筆談という方法で○○君の言葉を読み取れるということを伝え、☆☆さんのお母さんをそばに呼んできた。おそるおそる○○君の手をとった☆☆さんのお母さんは、深い集中をこめて、読み取りを始めたが、それほどの困難を感じたご様子もなく、ゆっくりとではあるが、○○君の言葉を読み取っていった。最初の一言は、「もっと食べたい」という言葉で、それは、目の前にあるパーティーの食事のことだった。
 新しい始まりの瞬間だった。○○君のお母さんと☆☆さんのお母さんはもともと親しい間柄なので、さっそく☆☆さんのお母さんは○○君のお母さんの手をとって、筆談の援助の方法を伝え始めた。すぐにうまくいったわけではなかったが、お二人とも、この新しい展開を確かなものにしたいと今後にむけていろいろなお話をされていた。
 そこへ、退職なさる先生から、◇◇さんにも関わってほしい旨の伝言をいただいた。主役の先生は、たくさんの人に囲まれてお忙しかったわけだが、その合間のことだった。そして、◇◇さんのもとに向かった。会ったことのあるような気がしたのは、何度も映像を拝見していたからだが、初対面だった。◇◇さんは4歳までは見えていて、それ以降は全盲になったとのことだが、さっそく手をとってみると、すらすらと言葉が語り出された。あまり時間がなかったので、すぐにお母さんに方法をお伝えした。すると、すでに「はい」と「いいえ」は手を握り返すことで返事を読み取れているということで、あかさたなの方法がけっこううまくお母さんにも伝わった。すでに成人した◇◇さんが最初に語った気持ちは、これで一人でも生きていけるかもしれないという言葉だった。そして、今日は、自分を大切にしてくれた先生のお別れの会だったので寂しい気持ちをかかえて来たのだけれど、こんなことに出会えて本当にうれしいということを語った。
 お母さん方へこうして広がりが生まれそうな可能性が見いだせことの意味は少なくないような気がした。パーティーのさなかでの突然の出会いだったが、新しい一歩が踏み出せたような気がした。


2011年2月19日 19時51分 | 記事へ |
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