ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2011年03月17日(木)
東北関東大震災のこと 病室からのまなざし
 東北関東大震災の被災者の方々に心からのお見舞いを申し上げるとともに力強い復興をお祈り申し上げます。

 地震の前の約束をキャンセルせずに病院にうかがった。2時過ぎにうかがうと先に到着しておられた先生から、今日は3時過ぎから停電になるかもしれないと言われた。停電になった際の人工呼吸器等の機器の管理で、看護士さんたちはあわただしく立ち働いておられた。○○君の愛用のラジオは、ずっと震災のニュースを流し続けていた。いつもよりも音量が大きかったのはきっとお医者さんや看護士さんたちも情報がほしくてラジオの音量をあげたのだろう。もし計画停電が実施されれば1時間弱の時間で、☆☆さんと○○君の気持ちを聞かなければならないので、大急ぎでパソコンを開いた。
 ☆☆さんの言葉は、やはり、この大きな災害にかかわることだった。

 いい季節になったと喜んでいたらこんな大変なことになってとても驚いています。
 なぜこんな悲しいことが起こるのかわからないけれど小さいときからどうして私には障害があるのかと考えてきたのでみんなよりはよく考えられるのかもしれないけれど全然わかりません。
 小さいときはよく神さまをうらんだりしたけれどじっと煩悩ということを考えて望みだけは失わないようにしてきたのだけど、理解できないほどのできごとでした。
 びろうどの未来が被災者にも訪れることが唯一の願いですがどうなっていくのかとても心配です。みんなずっと人生を投げ出さなければいいなと思います。


 人間を襲う誰のせいでもない理不尽なできごとについて考え抜いてきたけれど、今回のことはわからないという彼女の気持ちは痛いほど伝わってくるものだった。
 ここで彼女は、私に「先生はどう思いますか。」と尋ねてきた。私には答えきれない問だったが、私は私なりに方丈記の地震や飢饉に関わる記述、良寛の地震に関しての言葉などを印象深く読んでいた自分には、「煩悩」という言葉を使った☆☆さんの考えは親近感を感じたので、「私の考えもあなたの障害ついての考えに近いと思うけれど、それをはっきりというほどわかっているわけではないのでなかなか大きな声で胸をはっては言えない」と答えた。すると彼女はこう続けた。

 ごめんなさい、へんなことを聞いて。本当ですね。本当のことをわかっている人は誰もいないですね。
 小さいときからの疑問でしたがようやく答えが見えそうだったのにまたわからなくなりました。
 人間というのはむずかしい存在ですね。病院にいるとそういうことをよく考えさせられます。


 もっと話を聞きたかったが、限られた時間なので、○○君のベッドのほうに行った。彼もまたこの大きな震災に関するものだった。

 生き死にということを考えました。なぜこんなことが起こるのかよくわからないけれど何千人もの人が亡くなったのがとてもわかりません。人生を途中で断たたれてしまって。よくわからないけど目的というのが本当に持てなくなりそうです。なぜぼくが生きているのか、なぜ私たちの苦しみがあるのかなど、わからなくなりそうですが、理想は理想としていいこんなわかり方があるかぎり目的を大切に生きていきたいです。理解できない悲しみにもきっと意味があるのでしょうね。わかるのはむずかしいかもしれないけれどどうにかしてぼくも生きる意味を見つけたいです。みんなもきっと同じだと思いますから。ぼくもどうにかして生きる意味を見つけ出したいと思います。わずかな希望さえあれば人間は生きていけるということをぼくたちがどこまでも証明してきたのでみんながんばってほしいです。
 私たちの仲間のことがとても心配です。願いはもっと私たちの仲間のこともニュースで伝えてほしいです。ぼくたちのことをもっと理解してほしいです。
 ぼくたちも生きていると世界に向かって言いたいです。分相応ではなくて望みどおりに生きたいですからよろしくお願いします。


 途中、停電の予定時刻が来たけれど、幸い停電はなく、会話も続いた。一緒に訪問した先生は、被災地でたくさんの人々が支えあっているという話を○○君に聞かせた。すると彼はこう語った。

 ぼくたちのことと同じですね。ぼくたちもいろいろな人に支えられているので、ごらんなさいぼくたちのことをと言いたいです。そうですね。未来のみんなの幸せはそこから始まるということですね。
 どうにもならない苦しさも勇気を出せば乗り越えられるということがわかりましたからだれでも人間は同じだと思います。こんなにたくさんの人が亡くなると悲しいけれど大切なことがよくわかるのですね。
 どうにかしてぼくたちのことを世の中に伝えたいけれどみんなぼくたちのことを何も考えていないと思っているのでわかってもらいたいですね。


 ☆☆さんも○○君も、障害という状況の中で生きる自分たちと被災された方々とを重ね合わせて理解しようと懸命だった。
 そして、☆☆さんに向けて次のように書く。
  
 ぼくたちにも勇気を持って生きる心があるということを、人間だから心があるということを、悩みも当然あるけれどみんな希望を持って生きているということを伝えたいですね。☆☆さん。
 
 容易には届けられないけれど、こういう思いで被災地を見つめているまなざしがあるということを、ともかく記しておきたいと思う。

 



2011年3月17日 10時19分 | 記事へ |
| 小児科病棟 / 東日本大震災 |