ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年07月13日(日)
ナンセンスな歌と人生のわびしさの歌
 音楽が好きで、毎回の関わり合いには音楽が欠かせない20代半ばの○○さん。関わり合いを始めてしばらくして、アニメのキャラクターの絵を5選択のスイッチにはって、その絵を押すと主題歌が流れるという選択から始まり、しだいに、文字で書いた名前をスイッチに貼っても選べるようになっていった。それが、少しずつ、2スイッチワープロによる50音の選択へと、一歩ずつ進んでいった。音楽については、とてもいい意味でこだわりが強いので、この日はこの歌が気に入っているという歌があると、その歌を集中的に選んだりしてきた。しかし、歌についての言葉を選ぶのがどれだけ自由になっても、なかなか気持ちを表そうとはしなかった。例えば、「ぴーこぽん(?)ききたいです。みずむしのうーたまたきかせてください。さいごはといれいく。」(2005年7月)、「おちゃCDかもんかりたいよえそわあきつ かけてかえうためどれー2005げんきがでるCD!!トイレイク」(2005年11月)のような感じだ。
 そんな彼が、ひと味違う内面を見せてくれたのが、2006年の5月のこと。おとうさんの誕生日の話題から、「あそびにいきましょう ぺんしょん」とおとうさんをねぎらうためにペンションに行こう提案をするということがあった。しかし、2008年3月に「れいぞうこにしらないやさいがある たべてみたい やさいがわるくなったらたいへん めんどうをかけてごめんなさい おかあさんたいへん かんしゃしています」と綴るにいたる。ちょっと不思議な展開ではあるが、母への感謝の思いでしめくくられた。
 そんな○○さんが、土曜日にこんな文章を書いた。

こぶくろのCDをかいたい
おかあさんにおかねをもらいたい
ふだんおかねをつかわないのだからかってにつかいたい
とびきりかいたいのは すすとやかんのうたをわかす
かもんたつおがだいすきなのは なんせんすだからです
すてきなうたもすきです
こぶくろのうたはじんせいのわびしさをかんじさせてくれます
すばらしいです
 
 途中、嘉門達夫のCD(なんと2008年発売のもの、まだ、嘉門達夫はばりばりの現役だった。)をかけてほしいと訴えて、不思議な歌をかけながら、2スイッチワープロを進めていった。CDラジカセなどの再生装置がなかったので、パソコンを使ったため、音楽に完全に2スイッチワープロの読み上げの音声はかき消されてしまった。すると、彼は、しっかりと画面をみすえながら、言葉を綴っていった。
 彼のことを歌が好きということはたやすい。それはまぎれもない事実だ。しかし、嘉門達夫を好み、こぶくろを好む彼は、彼の言葉によれば、「ナンセンスと人生のわびしさ」という対照的なものとしての意味を持つものだった。
 音楽が好き……という言い方は、いつも簡単に使われる表現だ。しかし、その音楽がどのような感受性によって聞かれているかということは、なかなかうかがい知ることができないものだ。
 もしかしたら、最近まで言葉による表現手段を持ち得なかった彼にとって、音楽は、閉ざされた彼の世界を彩る大切なものだったのだろう。一方で、様々な不条理を笑い飛ばしてしまうナンセンスの力を信じ、一方でしみじみと人生のわびしさに思いをはせる彼の音楽の世界は、もっともっと深い奥行きを秘めたものに違いない。
 また一つ、とても個性的な心の世界のあり方を知った。


2008年7月13日 01時58分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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