両親も亡くなり、施設で暮らすKさんと、わかそよの練習会場で出会った。私が最初に歌を聞き取るやりかたを発見したのは、1昨年のことだった。そして、1昨年のわかそよでは、Kさんの歌をミュージカルの中で歌うこともできた。そのKさんに、パソコンとスイッチを向けてみた。すると、すぐに彼女はこう綴った。
いつも穏やかだった海が突然牙をむいて理想をすべて打ち砕いた。
私は私の大切な生きる意味を失いそうになってしまったけれど
人々の立ち上がる姿に勇気づけられた。
なぜだろう、人は理想を打ち砕かれても再び立ち上がることができる。
人間はなぜそんなに強いのか。
私もこんな体で自分の気持ちさえうまく伝えることもできないけれど
私も勇気を持ってまた立ち上がっていこう。
冒険をまた始めよう。
この詩を綴っている間、Nさんが私のすぐ後ろで私たちを見守っていた。そして、綴り終えると、私の服をひっぱった。話を伝えやすくするためにあえて記すが、Tさんは、発話の困難なダウン症の方だ。いつももの静かな彼が、これだけ積極的に何かを伝えてくるのは言いたいことがある時だ。そして、彼は、一篇の詩を綴った。
津波よ
なぜおまえはすべてを奪っていったのか
忘れられないのは
悲しみに泣き叫ぶ人の声
忘れられないのは
子どもを亡くした母さんの泣き声
なぜおまえはそんなに残酷なのか
わずかの希望は
どんな苦しみの中からでも人は立ち上がるということ
もしぼくにも力があったら
どんなことでもしてあげたい
もしぼくに声が出せたなら
理想を声高く叫びたい
ぼくの障害も
津波のようになんでかという理由はわからないものだけど
ぼくも立ち上がろう
津波に負けない人間として
KさんとNさんの言葉は、わかそよのステージで、朗読の得意な仲間によって読み上げられる。
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