ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2011年10月26日(水)
6人の学生との対話
 後期の授業から少人数の演習という授業が始まり、Iさんに来てもらった。先日、9月のきんこんの会の時に、合わせて60名ほどの授業にも仲間とともに出ていただいたのだが、今度少人数の時にという希望をうかがっていたので、来ていただいた。受講者は、ちょうど彼と同じ年齢になる3年生だ。
 今日は、教育実習や就職活動などで、参加者は6名だったが、ゆっくりと話をすることができた。
 まず、彼からのメッセージ。

 そんなに緊張しないでください。もう少しリラックスしてください。小さいことですがぼくにとってはなかなかない経験なのでよろしくお願いします。どこで呼んでもらえるわけではないのでわずかのチャンスを大切にしたいですからよろしくお願いします。ところでぼくのテレビを見たそうですが何を感じましたか。

 テレビとは、小6の時にテレビの取材を受けた時の録画を先週みんなに見ておいてもらったものだ。これは、援助によって50音表を指さして話す少年のドキュメンタリー『奇跡の詩人』というテレビ番組が様々な物議をかもしたので、その検証の番組という意味で制作されたと言われるもの。彼は、援助による筆談のできる少年として登場していた。

(最初の女子学生の感想に対して。理解することの大切さについてわかったということをのべた。)
 そうですか。ありがとう。よくそこまで見てわかりましたね。私たちは私たちらしく生きようとしているのですがなかなかうまくいかないので困っているので理解者がほしいので学生さんたちには期待しているのでよろしくお願いします。
(二人目の女子学生。一生懸命伝えようとしているのがよくわかったというような感想に対して)
 ありがとう。ぼくはまんざらではなかったですがテレビに出られて。だけど誰も何もいってくれなかったので寂しかったですがみんなに見てもらえてよかったです。ふざけて書いたのはわかりましたか。あれはふざけただけです。
(テレビでは、英語を使う国を書いてくださいと言われて、彼が「ホンコン」と書く場面が映っていた。)
 みんなまじめですね。ぼくはまじめではないので気をつけてください。

 愉快な先生ですね。いつもそうですか。(これは私の発言に対して。)

(3人目の学生は、自分もやれるようになりたいという感想。彼は、また、特別支援学校の教師を目ざしていると語った。)
 なるべく私たちのことを理解してほしいのでぜひぼくと話せるようになってください。いい先生になってくださいね。

(4人目の学生は、研究室にいつも出入りしていてきんこんの会にも参加したことがある学生で、Iさんとは何度か会っている。)
 ありがとう。なかなか理解されないのが理解してもらえてうれしいですが何度もあってますね。思い出しました。そうでしたね。ところでみなさんの中で僕たちのような障害のある人とつきあった人は?

 学生たちはそれぞれの経験を語ったが、その中で、教職希望の学生に義務づけられている介護等体験の話が出て、彼はそれについて次のように述べた。

 ぼくは○○養護ですが介護の学生が来るのがとても楽しみでした。若者は純粋だからです。勇気づけられることも多かった。それは何度でも聞き直してくれたりして、いつか社会に出ても大丈夫だと思えたから。理解者が増えればいいといつも思ってます。

 そして、彼の次のよう発言をもとに、みんなで練習をすることになった。

 ぜひぼくで練習してね。言葉をぜひ聞き取れるようになってね。

 一人ずつ、4文字程度聞きとる練習をしてみた。すると、最終的に、6人の学生全員が彼の言葉をスイッチで聞き取ることができたのである。いつも、あんなに難航するのに、これはとても面白い経験だった。彼も、「できる人は、少し変わっている人だということをいいながら、この部屋の学生はみんな変わっているね。」などといいながら、大変な手応えを感じた様子。
 一つ、わかったことは、最初の一人目の学生は、いろいろと手探りだったのだが、それを見ている仲間の学生たちは、その学生と気持を一体にして、応援しながら、いつのまにか、見ているだけでやっているような感じになっていて、学生が変わるたびに、どんどん読み取りが正確になっていったことである。「若者はちがう。大人だったら、変わるたびにまた最初からやり直しなのに。」と言うのが彼の感想。
 ちなみに彼の綴った文章は、

なつき えにかみ つすをや てめむよ せあああ やすわは から。ひ れとしめ

 最初は、「なつき」という学生の名前。「えにかみ」はその学生の髪が絵になるという意味。「つすをや」は2スイッチワープロをやって。ここまでは、意味のある言葉だったが、そこからはわざと意味のない文字を羅列した。これは、まちがいなく伝わっていることを彼自身が確かめたかったからだ。
 何か新しいことの生まれそうな予感に満ちた授業だった。

2011年10月26日 17時57分 | 記事へ |
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