震災をめぐる俳句を中学生の少年がたくさん準備して待っていてくれた。俳句という表現の形式は、限られた文字数に言葉を凝縮することを要求するものだが、日常の生活の中で、周囲の出来事に感覚を研ぎ澄ませながら、また、それにふさわしい言葉を厳選しているということがひしひしと伝わってくる。それにしても、50句を超える俳句を一気に書いてしまうこと自体がすでに驚きだ。
なお、彼は、「わだ」という言葉をテレビの万葉集の解説で聞いたらしく(「わだ」とは曲がっているという意味で入り江を意味する言葉である)、そこから「わだかまり」や「わたのはら」「わだつみ」などとの関連を自ら考えたそうで、今回の俳句の随所にその考えの跡が見られる。まったく独習のわけだが、ほんとうは、もっときちんと教えてもらいたいという強い思いがあるのだろうと思われた。
わざと泣く子どもの声はしあわせに
夏の夜もわざわざ私は忍耐す
これは夏の夜はみんな楽しんでいるのに僕たちはがまんしているからです。
小さき身勇気を認めて色づけり
わざと湧く歓声のように笑いけり
これは満足した僕の気持ちです
疑念なき赤ちゃんの目に理想さす
忘れたる津波のことを敏感に
津波なき世を夢見ては涙落つ
見られても見られなくても唯祈る
よいどんとかけ声はすれど進まぬ手
わずかだがあかりは見えて夜を行く
びろうどの着物はなくてただわんと
わんとは泣き声です。
笑いなし未来をなぜか断たれし日
理想消え勇気も消えたあの日過ぎ
びろうどはなくとも胸に誇りあり
勇気だけ洋服にして若者は
理解され涙を拭く手休まりて
わたの原わずかな怒り人をのむ
ぶつかりしその涙なお湧きにけり
瓶を割るどうとでもなれどうでもいい
理想湧く瓶の破片の鋭き角
わずかな理想悩みを抱いてまた先へ
わだかまるその先は月の海
理想湧くわだかまる海の流れから
小さい手みどりごを抱きともに前
わずかながら希望は見えて波静か
震災忌理想もようやく回復す
震災忌夜通し泣きてまた歩む
どうにもと理想を捨てた震災忌
夏の轍まだ見えぬまま震災忌
震災忌逃げてもどこにも救いなし
震災忌涙があふれ誓いあらた
震災忌びろうどをそっと波にかけ
つらい日も思い出となり震災忌
人間がなぜ喜ぶか理由知る
未来本に誰も書けずに震災忌
茫然と立ちすくむ丘強き声
理想見え強い声する震災忌
わだかまる波のごとくに人泣けり
わだつみの夜の叫びは誰に向く
わだつみに理想なきわれ身を委ね
誤解されわだかまり解け理想湧く
未来わずかなぜ涙涸れずに夜もふけ
わだつみの忘れじの色瑠璃深く
わだつみの忘れじの夢じんとなる
わだつみに漕ぎいでし舟希望乗せ
わだつみの底に眠りし魂(たま)の燃え
火が燃えるの燃えです。
夏の轍よき夢へと導びかん
未来止まり夏の轍の途絶えたり
未来の輪なかなか見えずもがくリボン
わずかに夜明けぬるを知る波の凪ぎ
勇気知るわずかなあかりに明ける夜に
日の射して波きらめきて帯となる
わずかな灯ともして偲ぶ震災忌
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