ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2012年05月08日(火)
ゴールデンウィークの小児科病棟 詩と俳句
 病棟は、ゴールデンウィークにはあまり縁がない。主治医の先生も、看護師さんも、お休みにもかかわらず勤務しておられた。
 高校生の☆☆さんは、今日は、一篇の詩を用意してまったいてくれた。


 ブロンズのいのち

人間としていいドリームは
命をきらきら光るブロンズの像にかたどることだ
なぜ人のいのちははかないのだろう
なぜ無残にもいのちは突然絶たれるのだろう
じっとベッドに横たわったままの私のいのちも
なかなか夢をかなえさせてはもらえなかったが
小さな光が射してきた
なぜだろう
理解されて言葉の分かるいのちとして唯一の夢が実現した
人間としての誇りを取り戻すことができた
なかなか私の言葉は世の中にまでは届かないけれど
悔しがることももうない
なぜならどんないのちにも自分のいのちにも不思議な力があって
うきうきした身にあまるなつかしいマイドリームがあるからだ


 となりのベッドの小学生の○○君は、たくさんの俳句と一篇の詩を要していた。
 まず、俳句から紹介したい。冒頭の何句かは生まれてからずっと病院で暮らしてきた○○君を献身的に看護してきた看護師さんたちのことだ。彼は看護婦さんという言い方の方が好きだとも言いながら、看護婦さんというのを入れると文字数が足りなくなるからとも説明した。

まなざしを高く掲げて挽回す。
じっと待つ 身を粉にせる人振り向くを。
わしづかみしたき心を持てる人。
身を尽くし 心も尽くせり どんな日も。
わずかな手まさしく昔に訪いし手を。
 これは長い間僕を見てくれた看護婦さんは久しぶりに帰ってきてもまったくもとの手触りだったということです。(といしの漢字は)訪問の訪です。
誰にでも存分に来られたく更ける夜。
わずかな身 夜を通して身震いす。
長き夜をラジオと共に夢に舞う。
短くてまだ明けきれぬつまらぬ夜。
わじわじと身に迫り来る悶々と。
理想手に夜を過ごせり 平和の手。
忘れじの七つの光 涙なし。
わざわざとよきまなざしを届けた子。
わだかまる思いの晴れて雨上がる。
分相応なぜ私たち取り残す。
私の目リンドウの咲く野を求め。
わざわざ輪つないでわずかな希望つぐ。
よい理解得られし日のあり春去りぬ。
弓を持つ是非届けたき気持ち付け。
つがいの鳥世の中に告ぐなかよしや。
長く鳴き雉の呼び声何目ざす。
小さき野緑を残し冬枯れし。
わざわざに理想を掲げ邁進す。
実の子も他人の子どもも区別せず
わずかに日 残りし空に光る星。
短き夜 理想の瑠璃の見えて無に。
梨一つ路上に落ちて暮れる森。
疲れた身 横たえ善願いつつ。
唯一の希望なくさず練習し。
なぜぼくに言葉が分かると聞きし人。
緑なす野に立ちて祈る春深し。
瑠璃色と理想混ぜたし光る石。
技に出すひとりでは出せぬわが声を。


 そして詩は次のような、少し迷う心を表現した作品だった。

なつかしい南の風よ
南に帰れと君は呼ぶか
黙ったままに吹き付けて
僕を南に誘って
南の風は去っていった
理解できない南の風の呼び声は
わずかな希望をもたらして
ろうそくに火を灯したが
僕にはなぜか南には
何かが勇気を逃げ出させ
理想を僕から奪っていっただけど
僕は南の風を忘れない
南の風には空行く雲の
わがままな気持ちが許せない
南の風はひとすじに理想に向かって向きをとる
よい南の風よ
僕には理想が届かない
わずかな勇気がほしい
僕に理解できるメッセージを送ってほしい
やさしく僕を導いてほしい
わずかな希望を育てたい


 ○○君は、俳句でははっきりとした気持ちが表現されるのに対して、詩では迷った気持ちが表現できるとも言っていた。

 遠くで激しい竜巻や雷を起こしたというにわか雨が、病院に着く頃降り出したのだったが、変える頃にはすっかり青空が広がっていた。病院の窓から見える緑は狭くかたどられてしまっているが、その緑も新緑そのものだった。

2012年5月8日 22時09分 | 記事へ |
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