ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2012年07月20日(金)
「私たちより目線を下に置く人は初めて」ある通所施設での出会い その2
 お二人目の方は、部屋に入って来られると、さっとパソコンの前に行ったあと、部屋の隅に行って、私たちに背を向けて横になり、すばやく手に持っていたシーツで全身をくるんでさっと身を固めると身じろぎ一つしませんでした。理由は何であるにしても、拒否の姿勢であることは明らかでした。
 初めて出会う身も知らぬ人間、しかも、「気持ちを聞く」などというにわかには信じがたいようなことを言ってやってきた人間に心を開くことなど、容易ではないことは当然すぎることでした。
 人間関係というものは、じっくりと時間をかけて暖めていくものなのですから、こうした彼の態度は当然すぎるほどのものだったと言えます。
 しかし、今度彼にお会いできるのはいつのことになるかまったくわからないので、もしこの時間に伝わることがあるのなら伝えなければと考えました。
 微動だにしない彼のシーツにくるまれた背を見ているうちに、学生時代に教わったシュビングという精神科医のエピソードが思い出されました。毛布にくるまったまま身動きもしない患者さんのそばでただじっと座っていることを何日も繰り返していたら、ある日患者さんが起き上がって問い返してきたというエピソードでした。人は必ずわかりあえるというメッセージを私はこの話から受け取っていました。そこで、彼の背中の側に正座して、「今日は気持ちを聞かせていただきにきました」と自分の気持ちを伝えることにしたのです。
 語り終わったあともしばらく彼の背中は、固くこわばったままでしたが、突然シーツをはねのけると、さーっとパソコンの前に来て、気持ちを聞かせてくださいました。

いい気持ち。快適。
 小さい時から気持ちが言いたかったです。夢みたいです。
 なぜわかるのですか。僕はただここだと思っているだけです。よいやりかたですね。
 できるということがなぜわかったのですか。自分の気持ちが言えなくて困っていましたからとてもうれしいです。
 私にも私らしくいい人生が生きられるでしょうか。誰もこんなやり方があるなどと教えてくれませんでしたから何だか夢を見ているみたいです。
 理解してもらえてうれしいですが普通の人は僕がシーツにくるまると諦めるのにあなたはなぜ声をかけてくれたのですか。そうですが普通の人はなんだこいつはという態度を取るのにわざわざ話しかけたりしません。見たことのない人ですね。見た目で判断されることが多いので苦労していますがわずかな希望は私たちも見かけとは違う心があるということに気づいてもらえたことですがなぜわかったのですか。
 ずっと待っていました。じっとできなくてわがままだと言われてきましたが説明したいです。僕たちは気持ちがすぐに落ち着かなくなるのでなかなかじっとしてはいられませんがびっくりしました。今日はとてもいすに座っていられます。
 未来が開けてきました。別に誰のせいでもないけれど僕には長い間理解者が現れなくてもう諦めかけていましたが今日は私の気持ちを聞いてくれる人が来ると聞いても信じられませんでした。みんなも気持ちが言えなくて苦しんでいるので今日は時間がないでしょうがまた来てください。
 僕は何度泣いたかわかりません。僕たちをなかなか理解できない人もたくさんいましたがここで五年ほどいてずいぶん気持ちが落ち着くようになりました。だからとても感謝しています。わずかなわずかな希望ですが湧いてきました。
 もっと旅行がしたいです。
 理解者が増えてほしいですが難しいのですか。ずっとよいやり方を探してきたので感動しています。人間として元気に生きていきたいのでまた会えたらうれしいですが仲間を尊重してもらいたいです。
 わずかな力を読みとっているのですか。不思議な人ですね。私たちより目線を下に置く人は初めてです。
 私たちにも当たり前の気持ちがあると言うことがわかってもらえて最高です。わずかな希望ですが勇気が出てきました。
 地域で生きていきたいのでよろしくお願いします。
 速くないともったいないです、時間が。でも謎です。なぜこんなに速く伝わるのか。
 よい人がここにはたくさんいるので安心ですが早くこのやり方が広まればいいですね。


 「私たちより目線を下に置く人は初めて」という表現が途中にありました。これは、スイッチの援助の姿勢を単に私が床に跪くような姿勢で行っていたというだけのことなのですが、この言葉には、これまでの彼の人生が凝縮しているようでもありました。
 

2012年7月20日 10時56分 | 記事へ | コメント(0) |
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