関わり合いの場から
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プロフィール
ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。
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2012年10月15日(月)
友だちの手術のことと両親への手紙
Kさんは、とても興奮したようすで私たちのもとにいらっしゃいました。表情も切実なもので、何かを訴えたいことは明らかでした。20年以上おつきあいしてきたKさんがこんな様子は初めてで、お母さんも、いったいどうしたのかしら、昨日の夜からこんな感じで、今朝も、いくら好きな音楽を流しても静かにならないのよとおっしゃって、戸惑っておられたのです。ただ、ご両親に何か訴えたいことだったら、たとえ現在のように言葉で表現する術がなくても、ほとんどすべて通じていたわけだから、直接自分のことをお母さんたちに訴えたいということではないということはお母さんも感じておられ、前日からということは、翌日に私たちと会って何かを訴えようとしているのだということはお感じになっておられたとのことでした。そして、綴られたのは次の文章です。
犠牲的な話です。人間だから唯一の尊厳を守らなければいけないのにしてはいけないことをされそうになっているからやめてほしい。残念なことがありました。私の友だちの喉にメスを入れると言っているのがつらいです。呼吸が苦しいからですが声を奪ってはいけないと思います。私は絶対に拒否します。なぜなら声あるから私はみんなと話せているからです。はい仲間のことです。その人は声で私とコミュニケーションを取っているのでもう私たちは話せなくなってしまいます。ずっと一緒だった友だちですが敏捷な体でみんなと楽しく走り回っていた人です。ずっと体調を崩して寝たきりになってしまった人です。地域で生きていくためには気管切開は足かせになりますから心配です。夢はその子達とみんなで地域で暮らすことだったから何としても気管切開だけは避けたいのです。みんないろいろな制約を抱えて生きていることはわかっていますが私たちはいつも受け身でそれを受け入れるしかなかったけれどせっかく話せるようになったのだからどうにかして訴えたいです。男の人で年上ですが体は小さい人です。きゃしゃな体で動いていたのでみんなからかわいがられています。敏感な人でしたから私たちをよくかばってくれました。学校時代から。
Kさんのおっしゃりたいことは痛いほど伝わってきましたが、それだけではここで気持ちをはき出しただけで終わってしまいます。私に思いつくのは、この気持ちを手紙にして届けるということだけでした。そして、それを彼女に提案して書かれたのが次の文章です。
職員さんへ。
わたしはとても気になっていることがあります。それは○○君のことです。ずっと冒険好きの彼にはたくさんかばっていただいたので彼が気管切開をして体を思うように動かせなくなるのがたまらなくつらいです。自分たちは生まれてからずっと寝たきりでしたからこういう暮らしになれていますが○○君はまだまだ動ける人なので人間としての尊厳が奪われるような気がするのです。ばいきんがはいらないようになどと心配してあげているうちに呼ばれても答えられないのだから何もできない体になってしまうような気がして心配なのです。私は医者ではないから詳しいことはわかりませんがよほどのことでなければ気管切開は避けてほしいと思います。敏感な○○君だからそうとう悩んでいることでしょうから本当に心配です。なんとかなりませんか。生意気なことを言って申し訳ないですが友だちのためなので書かせていただきました。存分に生きたいといつも私たちは希望しているので私たちの人生を私たちが選べる時代が早く来るといいなと思います。冒険好きな○○君の人生だからそれを是非大切にしてあげてください。よろしくお願いします
。
一つ目の文章が感情の吐露だったのに対して、明らかに相手に自分の意見を伝えるために、読み手の立場もふまえた上での文章になっています。本人も、「先生に訴える時はただ自分の感情のままに言葉にしていたけれど、手紙にするとまったくちがう」と言っていました。
そして、手紙ならきちんと自分の気持ちが書けそうだと言って、ご両親に向けた手紙を書きました。
がんばっているおかあさんへ。
どんなに感謝しても仕切れないほど感謝していますが体調が心配です。これから寒くなるので体調にはくれぐれも気をつけてください。残念ながら私は何もしてあげられないので私が体調を崩さないようにすることが精一杯の努力です。だから私も頑張るので母さんも是非健康に過ごしてほしいです。時間ばかりが過ぎていくので私も母さんもずいぶん年を取りましたが良い人生をまだまだ送りたいのでお互い体にだけは気をつけましょうね。
Kより。
お父さんへ。
人生の後半で仕事を変わって大変なことも多いと思いますが私にとってはよい仕事についていただけたという実感です。なぜならどうしようもないように言われてきた仲間でもお父さんは愛情をかけてあげられる人だからです。私たちはみんな言葉を理解できているので分かってくれる職員を本当に必要としていますからお父さんによって救われた仲間もたくさんいるからです。なぜお父さんにはそういう気持が持てるのかというと私を育てたからです。どうして私がお父さんの子どもになったのかはわかりませんが私を育てたことが役に立ってうれしいです。
Kより。
そして、さらに、もう一つ書きたいことがあると言って来たのですが、ここでいったん区切らせていただきます。
2012年10月15日 10時40分 |
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