光道園にて レオナルイスのファンの方と
福井県鯖江市にある社会福祉法人光道園。創始者自身が視覚障害者であるこの施設には数多くの視覚障害者が暮らしている。この施設に、点字やその基礎学習のための合宿に行き始めて、20年以上が経過した。途中5年ばかりのブランクがあるが、毎年夏の恒例になっている。
私たちが関わる方々は、多くが視覚障害に別の障害をあわせもったいわゆる重複障害のある方々である。
生活を過ごしている施設で、こうした学習がなされているというのは、おそらく全国的にもきわめて珍しいはずだ。
リベットの学習から点字の学習へと移行していくプロセスなど、私は、この合宿で繰り返し、学ぶ人たちの姿の中から教わってきた。
中に、点字を完全にマスターしている方で、パソコンに接続する点字入力装置を以前お送りした方がいる。機器の関係でなかなか日常では使いこなすのはむずかしいとのことだが、合宿では、どんどんパソコンに点字入力装置を使って文字を入力していく。これだけ入力が巧みなのだが、彼女もまた重複障害者と呼ばれる。
音楽にとてもすぐれた感性をもっている彼女は、いつも、その時に熱中しているアーティストがいる。今年は、レオナルイスというイギリス人の歌手だった。(なお、点字の表記では助詞の「は」は「わ」長音は「ー」となる。)
れおなるいす
かのじょわえっくすふぁくたーのゆーしょーしゃ。
そのひとわぐらみーもしてますよ。
まったく初耳の歌手名、いったい誰と尋ねると、どんどん説明が書かれていく。
れおなちゃんわびょーめいわしってるけれどどーしてなったかなどわわからん。せんせいせい(先天性)はくないしょー。れおなさんわひだりめをうしなってしもーた。
どうやら、視覚障害者の歌手らしい。そして曲名として次のものが書かれた。
ぶりーびんぐらぶ。べたーいんたいむばらーどもあるよ
そして、年齢と出身地について、
23いぎりすろんどん れおなさんわとてもやさしいひとそうに
その後、話は彼女がこの施設に来たという話に発展していく。
れおなさんわいちどここにきたときにわるいことをした。ひをついた。ぱんとじゅーでうたした
れおなさんわそのうたのとーりにならないひとがいるかられおなさんわこまっていますよ。。。
真意はよくわからなかったが、とても愉快そうに語りながら書いていった。これは冗談ととっておけばよいのだろう。
そして、最後は歌の魅力についてたたみかけるように書いていく。
(…)すこしかなしいかしがある(…)れおなさんわみんなをたのしましてくれる。うたをつくったりかばーうたもうたったり。こるよ。ひとりでうたうのじゃなくうしろでするひとがいるよよね。れおなさんわみんなのしらないうたをひとつづつうたうよ。(…)れおなさんわそのうたをきくちからがあるからみんなしるよ。そのうたのすがたがかわからないけれどすごいとおもうよ。そのひとたちやひとりのひとわそのうたをききこんでいそぐあしをとめてきくよ。そのうたがわくわくしないひとよりもわからないよ。そのひとがうたをうたうとそのみりょくがわかるよ。その12きょくよりもたくさんうたがつくられてそのうたらがいいから。(…)
学習のあと、彼女の部屋の前を通ると、レオナルイスの歌がかかっていた。
家に戻って、レオナルイスについて調べてみた。すると、なんと特に障害の事実は記されていない。
その想像上の話にこめられたメッセージはいったい何だったのだろう。ご自分の視覚障害と重ね合わせていたのだろうか。ただ、心の底から楽しそうにタイプを打ち続けていたことだけは事実である。
来年は、また、どんなアーティストの話が聞けるのだろうか。
追記(8月27日):レオナルイスが、北京オリンピックの閉会式で歌っていた、次回の開催地ロンドンの代表として。とても有名な人だったのに、さぞ、彼女は、話し相手としてはりあいがなかったことだろう。
|
2008年8月25日 00時45分
|
記事へ |
コメント(1) |
トラックバック(0) |
|
他の地域 |
トラックバックURL:http://blog.zaq.ne.jp/yshibata1958/trackback/54/
先日から『行きなおす、ことば』(大沢敏郎)を読み直しています。「略…、人が全身のつからをつかって文章を書くすがたを初めてみたように思った。ああ、識字の文章は、こんなふうに書くのだ、ちうことを実感することだできた。神々しかった。」(52P)とあったのを思い出しました。