ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年09月01日(月)
「ごかいされるけど」「ふゆかいです」―誤解とのたたかい
 ○○君の文章は、いきない「くやしいこと」から始まった。「くるまででかけたときのこと」「しんごうでとまっているとき」「うしろからいわれた」とのこと。さらに「でんしゃでこのまえむかいのひとにへんなめでみられました」と、言葉をたくさん重ねながら表現した。
 彼が何を言いたいか、それは、ふつにこの社会の中を生きていれば、容易に察しのつくことだ。しかし、「つまらないことをいってもむだなのでうまくかわしました」というような表現もあり、○○君自身はそんなにめそめそしているわけではないように見える。それを伝え、それで、君はどう考えるのですかと尋ねてみた。すると、

ねがいはみんなによくわかってもらうことです。てもつかえないしきもちもひょうげんできないのでずいぶんごかいされるけどほんとうはなんでもわかっているのでふゆかいです。

と返ってくる。そこで、さらにその誤解のことについてお母さんから、電車の中で声を出していることや、口を手に入れることなどのことを指摘されたので、さらにその意味を尋ねてみると、

こえはなかなかとめられません。ゆびはかってにてがうごくのをとめるためですからしかたありません。かってにうごくのはなかなかとめられません。しせいをあんていさせるいみもあります。きいてもらえてうれしいです。

という返事。「奇声」とか「常同行動」などと不当に言われるこうした行動の意味を、きちんと解き明かしてくれた。そういうことを綴りながらも、彼の手は、時々私の髪の毛をぐっと握りしめてひっぱったり、指に爪が立ったりもする。これらも、私たちの距離が近いために、手が触れて起こっているにすぎないことを、私は迷いなく理解することができた。○○君たちが解かなければならない誤解は、単に、「文章を書ける力があるとは思えない」というものだけでなく、こうした、意図とは別に起こってしまう動きや体を安定させるために起こしている動きのために、なされている誤解をも含んでいることになる。こうした誤解は、そのまま差別と呼んでもよいものだ。だから、彼らの誤解とのたたかいは、そのまま差別とのたたかいでもある。
 ここで、最近よくみんなに尋ねる数の問題について、彼にも聞いてみた。彼が自分で作って答えた問題は、

54−6=48 62÷2=31

 そして、それについてのコメント、

けいさんはひとりでべんきょうした
すうがくもおしえてもらいたいといつもおもっている。

 さらに、勉強への思いはあふれ出す。

うけられるのだったらだいがくだってうけたい。いまはむりかもしれないけどいつかかなうならうれしい。ゆめはいつももちつづけたい。いってみたいです。

 いつか、彼にも、大学で話してもらいたいと思わず、提案した。「いってみたいです」は、そのことに対する答えだ。必ず、約束は果たさなければならない。
 このあと、一緒に手をとってカチカチとスイッチの入力を繰り返す方法について尋ねてみた。

くうきのようです。(…)このほうほうはかんたんです。いい。とてもかんたんなやりかたです。

 さらに、どうしてこんなに速いスピードでほとんど見て確かめたりしないで正確に綴れるか尋ねてみると、

じぶんのかんがえていることだからまちがうはずがありません
すぴいどがはやいほうがかんたんです。ことばをしぜんにはなすことにちかいからです。

というのが答えだった。実に論理的である。
 彼からは、これからも多くのことを教えてもらえそうだ。そして、きっとそれは、私の中にいまだにこびりついている、様々な誤解や偏見を一つずつ取り除いてくれることだろう。


2008年9月1日 00時19分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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