ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年09月13日(土)
「つらいことはなんですか」その後
 夏休みに、仲間たちと話し合いをした時に、みんなに「つらいことはなんですか」と問いかけた○○さんとひと月ぶりに会った。そして、その時のことについての感想を次のように語った。

このあいだのおはなしとてもすごかったです
つよいきもちでないとわたしたちはくらしていかれないとおもう
にんげんとしてかのうせいをしんじてもらいたいとおもいます
もっといろいろなひととやりたいです

 彼女たちがおかれている状況には、「つよいきもち」が必要だという。もちろんもっと楽に生きられたらと願わないではないが、彼女は、もっとしっかりと現実を見すえているということなのだろう。そして、その気持ちをいちばんわかり合えるのは何よりも同じ立場にいる仲間たちということになる。
 また、この日は、私たち関わり手は4人いたので、かわるがわるスイッチの援助をした。「もっといろいろなひととやりたい」という言葉はその中から生まれてきた言葉だ。まだ、限られた人との限られた場所でのコミュニケーションに閉ざされているが、いろいろな人といろいろな場所で、当たり前に話せること、その可能性を信じて、もっともっと前に進んでいかなければならない。
 また、この時一緒にいた学生に、こうも問いかけ、お願いもした。

よくきましたね なにをべんきょうしているのですか
くるまでおねえさんはきたの
べんきょうをときどきおしえてもらいたい おねえさんに
よろしくおねがいします

 彼女もまた、学びへの強い渇望を持っていた。

 時として、幻想的な物語を綴る☆☆さんは、今回、また、不思議な書き出しから始まった。

えすがたとみまちがうほどすてきでかれんなそのもようをよくみてほしいけど
もようをなんかいもかきかえてしまってとてもこまってしまい
じぶんがさがしていたすてきなねがいがかなえられ
ねがいどおりのほんとうのすがたになることができました
とてもよくなったのでねがったことをわすれてしまうほどでした
ほんとうのものをみつけることができたのでのぞみがかなえられました
でもりそうはまだまだたかくかかげていきたいとおもいます

 不思議なイメージだが、今、満たされた状態にあること、そして、もちろんもっともっと理想を高く掲げていきたいということが、伝わってくる。そして、謎解きのように次の文が綴られた。

ほんとうのじぶんにであえるまでけっしてあきらめずにいきたい
せっかくのきかいだからふしぎなことばをかいてみました
どうでしたか

 「もよう」とは、自分のこと。多様な自分の姿の中に、ほんとうに自分らしいと感じられる自分がある。移り変わる「もよう=自分」の中に、ようやく自分らしい自分が見え始めてきたということだろう。しかし、本当の自分に出会う旅はこれで終わるわけではなく、もっともっと自分らしい自分に出会うために旅は続けられる。
 ふと、絵本「わたしのワンピース」を思い出した。
 ところで、彼女もまた、夏休みの集まりのことを語る。その時、ある学校の先生が来られていて、その先生の、空中に描く文字を読み取るという方法で、彼女は自分の気持ちを表現することができた。 

このあいだのせんせいはどうしてあのやりかたをはっけんしたのですか
とてもよいやりかただとおもいました
いつかかけるようになりたいです

 彼女もまた、いろいろな方法でいろいろな人といろいろな場所で気持ちを表現する事を望んでいる。
 そこで、また、かわるがわる彼女の手をとってみることにした。その結果、得られた文章は以下の通りである。
 
おかあさん
かしすのぷりん(カシスのプリン)
あかさぬ(あかさない)
かかえねる(楽な姿勢についての質問に対する答え)
つき(?)

 広がりが楽しみだ。

 
 ◇◇さんは、いつもこのブログで紹介する多くの方々とは、ちょっとちがうタイプの方である。それは、彼女が自分一人でいろいろな物を操作できたり、ひらがなを書くことができたりするということだ。小さい時からずっと、文字や数に関する学習を続けてきて、着実に、一歩ずつ力をつけてきた。その◇◇さんも、たいへん小柄ながら高校3年生になった。文字を書く時は、いろいろ対話をしながら言葉を決めて練習することが常なので、この間の夏休みの仲間たちの話し合いの時は、その場に手伝いにきていた学生たちの名前を書いて楽しんだりして、結果的に話し合いに書き言葉で参加することはできなかった。
 これまでは、ゆっくりと一文字一文字ペンをもって綴っていくことを大切にしてきたが、もしかしたら、みんなと同じような方法でちがった表現ができるかもしれないと、今回は、2スイッチワープロに挑戦してみた。これまでは、トーキングエイドや50音表のタッチパネルなどにも挑戦してきたが、2スイッチワープロは初めてである。
 まず、練習として「おかあさんおとうさんおじいさんおばあさん」と書いてから、本人に任せてみた。すると、ゆっくりゆっくり、選んでいき、次の文章が書けた。

たのしみ かくれんしゅうする うれしい

 それぞれ一文字ずつは、ペンで書けるけれども、気持ちの表現してこうした文章をペンで書くのはなかなか大変だ。しかし、音声のガイドがあったり、スイッチを押すだけでいいこうした設定では、気持ちの表現が可能となった。
 このことの持つ意味をどう考えていくか、これからの課題だが、一つ、新しい世界が開けたような気がする。
 私はパソコンや2スイッチワープロが万能だとはつゆほどにも思ってはいないが、可能性はいつも自由に開いていなければならないと思う。




2008年9月13日 11時17分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 自主G多摩1 |
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