ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年05月20日(火)
小児科病棟にて
東京の郊外の病院の小児科のICUに生まれてからずっと入院している小2の男の子がいる。骨の形成に関する病気で、自由に動かせるのはあごや口に限られている。3歳4か月の時に出会い、訪問を続けてきた。2スイッチワープロを使っているが、1個のスイッチしか使えないので、あごで送るほうのスイッチを操作してもらう。彼が送るのをやめたらそれが決定だ。ワープロで初めて文を綴ったのが3歳8か月。「じうれしい」だった。常識外れの関わりかもしれないが、彼には少しでも早く表現方法を伝えたかった。
 その彼も今年は2年生。訪問教育を受けるようになってから、ぐっと世界が広がった。とても優しい男の先生が彼にいろいろなことを教えてくれている。
 今日の彼の文章は「ふつか ひさしぶり もおやめるのかと」というもの。私たちには、何のことを言っているのか、さっぱりわからなかったが、看護師さんが、あら、「私、今日、二日ぶりね」とおっしゃったことから意味がすっと判明した。彼は、その看護師さんが小さいときから大のお気に入り。ところが、最近なかなか部屋の担当にまわってこない。今日は、ようやく彼女が担当にまわってきたとのこと。二日前は、担当ではなかったけれど顔を合わせたらしい。彼にとっては、大好きな看護師さんとの別れはとてもつらい。だから、とても心配だったのだ。
 いつもより文字数が少なかったのは、あごの動きがむずかしかったからなのか、それとも、不安な気持ちが文字を選ぶ速度を落とさせたのか。いずれにしても、さっそく看護師さんから「私、どこにも行かないよ。」と言葉をかけられ、彼は、ほっと安心することができた。

 その隣のベッドには、中2の女の子がいる。口元の動きでかすかなYesを読み取ってコミュニケーションが成り立っている方だ。ぴくっぴくっと動く口の不随意運動があるので、なれた方でないと読み取れない。私は、まだ、読み取れないでいる。
 その彼女とパソコンにチャレンジを始めて今日で5回目になる。
 スイッチ操作の可能な自発的な運動は、残念ながらどこにも見つかっていない。そこで、彼女の右手に軽くスライドスイッチの取っ手を引っかけるように握らせて、その右手をつつみこむようにして下から支え、一緒にスイッチを入れていくと、選択したいところで私の手をほんのわずか押すような動きが起こってくる。それを感じ取って文字を拾っていく。平行して、お母さんは、彼女の口元の合図を読み取り、訪問の先生は、ベッドサイドの機械の心拍の数値の変化を見ている。私とお母さんと先生の判断が一致すると、それが選択と言うことになる。まだ、正確な読み取りは完全にはできないのだが、「きてくれて」「うれしい」というような単語がつづられた。私が関わっている方々の中で、もっとも小さな動きを読み取っている方になる。
 必死で動かない手に力をこめてくるその思いの強さは、崇高さを感じさせるものだ。

 帰り道、集中の連続でやや放心状態になりながらも、気分は、さわやかだった、ちょうど、嵐のあとの今日の風のように。

2008年5月20日 20時33分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 小児科病棟 |
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