ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年09月27日(土)
ソニン その死と生
すなおにいきたいけどふまんがふんしゅつしてなかなかよくやれないでいる

どこか元気のない様子で現れた○○君が最初に書いた言葉だ。本当は素直な心で生きたいのに、自分のことをなかなか理解してもらえない思いが、自分から素直な気持ちを奪っていく。そんなことを言っているのだと思う。この日、最終的には1000文字を越える文章を綴った○○君だが、そんな力を持っていることがなかなかわかってもらえない。

 でもてはもっとあるとおもうのでさいちょうせんしたいとおもう でももうつかれそうです

 再挑戦しようというけなげな思いと、でももうつかれそう…という思いの交錯。私も思わず、「僕も疲れたなあ」と、嘆声をあげてしまった。私がこんなところで筋違いの共感をしても始まらないのだが、なかなか動かせない現実が思わずそんな声をあげさせてしまった。言おうと思ったらなんでも言える私と、気持ちを表すこと自体に大きな困難を抱えている○○君とは、全く立場は違っているのに。
 そんな葛藤をさらに言葉を重ねて表現しているうちに、

なかなかしんじてくれないけどくやしくてもあきらめないことがたいせつです

という言葉で、ひとまず気持ちの整理をつけたようだった。
 ここで、スイッチを持つ役割を別の仲間に交代した。スイッチの操作の援助法を練習させてもらうためである。
 練習のために質問に答えてもらうということで、まず「好きな科目は?」という問いに対して「ほけんたいく」という答えをうまく援助することができた。そして「好きなテレビ番組は?」と尋ねられて、「そ」を選んだ後、ナ行でうまく読み取れず、書いては消すと言うことが起こってしまった。そこで、私がちょっと代わったところできた言葉は「そにんそのしとせい」だった。ここで再び交代した。私は密かにこれは「ソニンその死と生」かと思ったが、自信もなく、しばらく経過を見守っていると、また文字を消しては書くと言うことになって、困ってしまったようだった。そして再び代わったところ、突然次の言葉が語られる。

けっこんできたらいいなとおもう
でもなかなかむずかしいかもしれないとおもう
どうすればけっこんすることができるのだろうか

 この重い問いにこちらも答える言葉をもたなかったが、何かさっきのテレビ番組と関係はないかと、さっきの「そにんそのしとせい」って何だったのかと尋ねてみた。そして次のような答えが返ってきた。

いいばんぐみはあまりないのでじぶんでつくろうとおもったけどむずかしかった
そにんはだいすきです
さんちゃんねるでいろいろなことをはなしているのをきいてすてきだとおもいます
みんなのことをうったえてくれるのでぼくはすきです
のぞみはそにんとはなすことです
まったくしらないけれどすすんでりかいしてくれるとおもいます
まいにちてれびをみているとときどきであいます
どうすればあえるかな
こんどのせいさくでとりあげてもらえないかな

 やはり、あのソニンのことだった。若者の重い心の葛藤に真摯に向かい合うソニンが好きだという。おそらく、結婚の話題が出たのは、ソニンと無関係ではなかろう。自分の心に重く横たわる問いにきっとソニンなら向き合ってくれるだろうと思ったのではないだろうか。

のぞみはすてきなひととめぐりあっていっしょにせいかつすることです
めぐまれないからだでもそのからだでせいいっぱいがんばればかのうだとおもう
よくがんばってゆめをたいせつにしていきたいとおもう

 この子に文章が書けるのだろうかと疑いのまなざしを向ける人には、人生を深く悩み抜いている青年の存在がそこにあるという事実は決して見えてこないだろう。11年前あどけない幼児だった彼は、もう立派な若者になった。表面的な知識ならまだまだたくさん教えることができるかもしれないが、一番大切な問いには、もう私たちは正解を用意することはできない。できることは、ただ、ともに彼の歩みに寄り添いながらともに考えていくことだけである。


2008年9月27日 09時06分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 自主G多摩1 |
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