ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年05月24日(土)
金曜日のできごとその1
 ○○さんは、言葉を初めて綴ったのは昨年の秋。関わり初めて11年半が経っていた。少しずつ仲間が語り始めていたけれど、なかなかきっかけがつかめなかった。方法は、仰向けに横になっている彼女の両手をとって、胸の前で両手を一緒にたたき合わせながら、パソコンのスイッチを私たちが押して、「あいうえお」、「かきくけこ」といってゆくと、選びたい行で手を大きく開いて合図を送ってくる。そこで、その行の頭から一文字ずつ手をたたき合わせながらパソコンで発声させていくと、選びたい文字で再び両手を開いてくる。この方法は、アニメや音楽のソフトならば上手にスイッチ操作ができるのだが、タイミングの調整がむずかしいために、ワープロとなるとうまくいかないという状態の中で、試行錯誤しながら見いだした方法だ。「かわいい○○です」から始まった彼女の言葉は回を重ねるごとに長くなっていった。
 2度目の1月の文章は、なんと、今は家を離れて大学に通っているおにいちゃんの彼女の話。
「(お正月に)おにいさんあえてうれしかった。ほおまでうれしかった。たくさんしゃべりたかった。かのじょのしゃしんがみたかった。こんどかえってくるときにしゃしんをみせてかわいいしゃしんをとってきてね!めーるしてくださいおにいさんに」というもの。なんとも、ほほえましい文章。
 3度目の文章は、2月。おとうさんが一緒に寝ようとするいやがるという話を受けてこう書いた。「ままのことがすき。ぱぱは、もちろんすき。ぱぱがすきだけど、ねるのはいやよ。おとこだからねるのは、よくないとおもってます。(後略)」ユニークな言葉だった。
 そして、今回が4度目の文章。残念ながら、「ゆううつ」という言葉の入った、168文字の文章は、秘密の文章。その後、お茶をしながら、パソコンは使わずに、「あ」「か」「さ」「た」「な」というふにして両手をとってたたき合わせながら聞いてみると、文字が選べた。「のみもの」とか「もらってありがとう」など、なめらかに表現することができた。そんな最中に発作が。お母さんが、「最近発作のあと、笑うんだけど」とおっしゃったので、さっそく聞いてみた。すると「わるいとおもってわらう」と返事が返ってきた。
 そして、今回の関わりの途中で、一瞬うとうとしてしまって読み取りが乱れてしまった私のことを話していると、すかさず、話したいというそぶりをして、私の顔をにやにやしながら見て、「つかれているの」と告げてきた。その自然なやりとりと、その台詞がいかにも○○さんらしさに満ちているということで、本当におもしろかったし、彼女自身も終始、おなかのそこから喜びがこみあげてくるような笑いをずっと浮かべていた。
 半年前まで、言葉をひきだすことができなかった彼女が、今、ふつうに会話をすることができるようになったのは、まるで夢を見ているようではあるけれども、もちろん夢でも何でもない。この現実に私たちが気づくのがあまりにもおそかったということだけだ。しかし、まるでそんなことをとがめもせずに、○○さんは、一言でもたくさん話そうとして、私たちの手を取り続けた。
 この独特のやり方が、一刻も早く、彼女のまわりの人たちに広がっていくことを心から願うばかりだ。

2008年5月24日 01時33分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 自主G多摩1 |
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