ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年10月15日(水)
舞い降りた詩人
 通常学級で学び、ゆっくりとであれば話すこともできる小6の女の子が、最近、2スイッチワープロで、たくさん語るようになった。今回も、ひとしきり、いろいろな話をしたあと、学校のプリントに話が及び、算数の速度の問題や社会の江戸時代のことなどを一緒に解いていった。口述による筆記で、実力そのものをプリントに反映させるのは、けっこうむずかしそうだったが、実際に2スイッチワープロで語ってもらうと、スムーズに理解していることが語られ、よくわかっていることが伝わってきた。
 そこで、次に国語のプリントをやった。そこには短歌や俳句が書いてある。プリントの設問は、字句を問うものがほとんどなので、いきなり説明を求めた。最初にのっていたのは、志貴皇子の有名な短歌、
「石(いわ)ばしる、垂水の上の、さわらびの、萌え出づる春になりにけるかも」だったが、彼女は、こう説明した。「はるになってわらびがはえてきた ぼくのこころにもはるがきた」。簡単な説明だが、後半が目をひいた。そして、それぞれの俳句や短歌に次々と気の利いた説明文がつけられていく。
「古池や蛙飛びこむ水の音」には、「ちいさないけでかえるがしずかにとびこんでとてもしずかさがふかまった」、「妹を泣かして上がる絵双六」には、「しょうがつにきょうだいですごろくをやっているといもうとがいつもまけてないてしまったようすをなつかしんでいる」、「卒業の兄と来てゐる堤かな」には、「そつぎょうのひにむかしきょうだいとあそんだつつみにきてなつかしんでいる」、最後に、「金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に」については、「なにかかなしいことがあってゆうがたさんぽをしていたらゆうやけがうつくしくていちょうのはっぱがとりのかたちをしてちっていくのをみてはげまされた」と、それぞれ短くても、その短歌や俳句にこめられた作者の感情が的確に表現されている。そこで、詩とはどういうものだと思っていますかと聞いたら、「なにかできもちがしずんでいたりうれしいときになにかをみたりきいたりしてこころがゆさぶられたときにつくられるものです」と返ってきた。これはきっと詩を作ったことがあるのだろうと思って聞くと「ある」という。じゃあ、作った作品を書いてみてと頼んだところ、驚くべき作品が書かれたのだ。全文ひらがなだが、漢字をあてて記しておこう。


すばらしい野良犬もねぐらに帰る夕暮れ時
静かに蝉が鳴いている
蝉の声の抜け殻に
一人暮れゆくその声の向こうに
秋が鳴いている
うちに帰る子どもたちの中から同じ匂いがして
得れない夢が消えていく
でもそこにはただ暮れてゆく姿のままの苦しみがあるだけ
すべて死を忘れた願いが明日を夢見ている
すべて罪を逃れられないとしても
美しい願いが輝いている
鳶の鳴き声に心が洗われ
すべてをゆるすばかりに羽を広げて
望みを捨てないことを誓った


 一文字ずつワープロの画面にかなが綴られていく時、意外な言葉や重い言葉が繰り出されてくることに、ただただ、不思議な感動を覚えていた。目の前のまだあどけない少女の普段の姿からは、まったく想像もできない深い世界が誰にも知られずに、豊かに広がっていたのである。
 最後に詩について、もう一度コメントを求めた。

ひとりでいつもしをつくっています
だれにもつたえたことはありません
こころのなかにしまっていました
きもちじたいをつたえるよりもいいとおもいます

 詩を見て驚いたお父さんは、こう言った。「我が家に詩人が舞い降りた!」


2008年10月15日 11時48分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 家庭訪問 |
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