ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年11月04日(火)
「あなにいた」 Tさんが穴から抜け出した日
 青年学級で、また、言葉を秘めていた方の存在が明らかになった。これまでの車いすの方々とはちがい、自分で歩く方だ。そして、言葉は、「おにいちゃん」「おねえちゃん」「おっちゃん」といった限られた単語を発声する人としてみんなに知られた方だ。話し合いでは、自分の意見をいいにくい人とも考えられてきた。その彼を、私たちのコースに訪問させたのは、若いスタッフだった。「Tさんにもパソコンやってみてもらえませんか。何時に行けばいいですか。」と尋ねられ、一瞬、「Tさんに?」と尻込みしそうになったが、若いスタッフの情熱に負けて、「じゃあ1時頃に」と返答した。
 ところが、いったんスイッチを手にすると、かれが文字を選べることがすぐにわかった。そして、指さしもできるので、時折、文字を指さしてその文字を読んだりもする。今までの関わってきた多くの方々とは、ひと味違う関わりだった。
 最初に綴られた言葉は、こういうものだった。

なぜぼくができるとわかったの
○○○さん(若いスタッフのこと)はどうしてゆってくれたの
びっくりしました

 そして、突然次の言葉を綴る。

わかってあなにいたきもち

 この時、「あな」と書いたあと、「に」をいったんゆびさして、改めてスイッチで選択するというようなこともあった。目の前のTさんの姿と、この重い言葉が、にわかには一致しがたかったが、目の前で繰り広げられている光景は、まぼろしではなかった。
 さらに次の言葉が続く。

このぱそこんほしい
すいっちがほしい
ふしぎですじぶんにもことばがかけることがどうしてわかったの
のぞんでいました
じぶんのきもちをいうことを

 字をどうやって覚えたのかという問にはこう答えが返ってきた。 

がっこうでおぼえました
ひとりでおぼえました

 そして、さらに次のように続く。  

しばたさんといっしょになにかやりたい
なにができるかとてもたのしみです
うれしいです
ねがいがかなったことがふしぎです
かんがえたことがすらすらことばになっていきます
いいきぶんです
おかあさんにつたえてください
ぼくがてではなしができたことを

 ここで、私は、Tさんに、今までまったくわかってあげなかったことを心からわびた。すると、われわれをまったく責めることもなく、つぎのような答えがかえってきた。達観しているというべきか。
 
しかたありませんそんなふうにしかみえないですから

 そこへ、彼を迎えに女性スタッフが入ってきた。すると次のような言葉が彼女に向けて書かれた。

○○○さんきれいですね
けっこんしてください
 
 あまりにもストレートな言葉に、○○○さんも、てれながら、率直に感謝の言葉を返した。

ねがっています
のぞみはすてきなひとといっしょにくらすことです
けっこんしてくれるひとがみつかるまでがんばりたいです

 私たちの青年学級では、いつも夢を大切にしてきた。そんな中で、彼の中にもこんな夢が豊かに育まれてきたのである。
  
よくかけてうれしい
またよろしく

 こう書いて、彼は、とても満足そうに自分のコースに戻っていった。
 帰りのお迎えに来られたお母さんにさっそくこのことを伝えた。すると、今でも家では、よくひらがなの表を見せているそうで、文字を読めることはご存じだった。当たり前のことだが、私たちよりもはるかに彼の力を把握しておられた。そして、このことを心から喜ばれながら、学校に上がる前からの話を、短い時間だったが、聞かせていただいた。就学前から、単語ではよく話をしていたこと、学校にいってから、指さしですませる傾向が増えたことなどなど。
 そんな彼が最近、うまく気持ちが伝えられずに、家で暴れたことの話になった。「穴にいた」彼の中でたまってしまったストレスが、一気に爆発してしまったのかもしえない。これからは、言葉を話すことによって、こうした行き違いもきっと減っていくのではないだろうか。
「もしいらいらするようなことがあったら、どんどん言葉で伝えてください」と彼にお願いしながら、この日はお別れした。
 穴にいた彼が、ようやく穴から抜け出したとても記念すべき一日だった。


2008年11月4日 00時21分 | 記事へ | コメント(1) | トラックバック(0) |
| 青年学級 |
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信じられない!!!と言ったら失礼ですが。。。たばこ吸いながら他の担当者に聞いて、他の人と勘違いして聞いてました。Hさんのことだと思って聞いてました。
彼は、帰りにも会いましたが、よく彼のそばにいる他の青年が「彼が帰りのつどいでずっとリクエストしていたのに、ずっとTさん全部の歌を歌っていたんだよ。」って聞いて、ごめん気づかなくてマイク持ってくればよかったね、なんて話をしてました。それを聞いて、限られた単語ではなくて、全部歌えるんだぁっと思っていたばかりでした。
いいなぁ。私も彼の気持ちをつづる瞬間に立ち会いたかったなぁ。
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