ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年11月04日(火)
「たびだち」の詩 
 ☆☆さんは、この日で3度目だが、今回は、学校でなかなかわかってもらえないことの悩みから始まった。綴っている途中、手に力が入ったりして、手をもたれるこの方法自体がいやになったかのような印象さえしたので、聞いてみたら、

きもちがおさまらない
じぶんでできるといいけどてがうまくうごかないのでこのやりかたがいいです

と返事をくれた。
 このあと、少しやりとりがあって、次のような文章が綴られた。

すばらしいですはなしができるということは
そんなことをかんがえているとなやみばかりかいているのがつまらなくなってきます

 そして、話はがらりと変わって、スイスに行くという話になった。

たのしいことはこんどもういちどすいすにいくことです
ふだんはいけないのでとてもたのしみです
いいきぶんです
すいすのことをかんがえるとわくわくします
ことしのふゆはなんだかまちどおしくなってきました
すいすではすぐれたおんがくをききたいです
すばらしいえもみたいです

 私はてっきりスイスに行く予定があるのだと思っていたら、お母さんが、そういう予定にはなっていないけど行きたいのと声をかけると、

いってみたいです
すいすではあるぷすのやまをみたいです
まっしろなゆきばかりのけしきがとてもそらのあおさをひきたててにあっているでしょうこのわたしに
かんがえておいてね
にほんにもいいところがあったらおしえてください

と、行きたいという思いとともに、とても美しい表現が綴られた。そこで、私は、詩みたいだけど、詩を作ったことはありますかと尋ねた。すると、「あります」と返事が返ってきて、一気に、一編の詩が書かれた。以下の通りだ。


        たびだち
   
うつくしくひろがるこのせかいにわたしはうまれてきた
なにひとつかわることのないからだでうまれ
ことばもたずさえて
しかしそのことはだれにもしられずにきた
なやみもくるしみもすべてひめたまま
このせかいでいきてきた
そんなわたしがことばをもった
こころいっぱいひらき
たびだとう

 言葉が表現できるようになったことをめぐる詩だが、言葉で表現できることを知られずに生きてきたことをめぐる切々たる思いが表現されている。こんな深い魂の世界が、ずっと誰にも明かされることなく秘められたというあまりにも重たい事実を、すばらしい言葉で語っていた。新しい彼女の旅立ちに立ち会えていることに、大変厳粛な思いを感じながら、私は、感動で体がうちふるえるのをおさえるのに精一杯だった。
 

2008年11月4日 00時28分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 自主G23区3 |
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