満開の桜が町中にあふれている中、久しぶりにSさんとH君の待つ病院を訪問しました。
同じ病室にいるSさんは高等部を卒業、そしてH君は、小学部を卒業しました。久しぶりの訪問でしたが、二人は、卒業にふさわしい詩を作って待っていてくれました。
まず、Sさんの詩です。
瑠璃色の宝石
銀世界になる雪の朝
私は瑠璃色の宝石を眠らせようと
そっと土に埋(うず)めた
瑠璃色の宝石は私にとって
大事な過去の思い出がつまった宝石
望みがかなわない頃のつらい思いも
つらさゆえに感じられた人の優しさも
みんなつまっている
瑠璃色の宝石を
優しい雪が包み込み
私はよき未来をさらに夢見る
人間として生まれて
人間として認められ
人間として生きていくことができれば
私はもう何もいらない
私たちは緑の風を
冒険への誘いとして
感じることができるだろう
私はつらい定めを
瑠璃色の宝石に閉じ込めたから
もう自由な人間だ
だから冒険を始めることにしよう
瑠璃色の宝石よ
静かに永遠の安らぎの中で眠りについておくれ
そして、次のように続けました。
私たちはこうして言葉を得て煉獄から抜け出すことができましたが本当に私はもんもんとした日々に別れを告げることができてよかったです。だから先生が忙しいほうがまたどこかで仲間がもんもんとした世界から抜け出せるのだと感じられてうれしいです。私たちは本当に幸せだなと思います。わざわざ忙しい中来てくださってありがとうございました。
なかなか時間が作れなくなった私に対して、広い心からかけてくれた言葉でした。そして、もう一篇、詩を綴りました。
めれんげの花に寄せて
メレンゲでできた甘く美しい花よ
あなたはろうそくがよく似合う
私は私の敏感な感性を光として
あなたのろうそくにともしてあげよう
理想がかなう日を夢見ながら
私たちはろうそくの光に祈りを捧げ続けよう
ろうそくの光ハイツまでも消えることはない
だがメレンゲの花よ
あなたはいつかだれかに食べられるだろう
もしあなたを食べた人が寂しい人だったら
あなたはきっとその人の寂しさを癒やすだろう
もし涙にくれている人があなたを口にしたならば
あなたはその涙を止めてあげるだろう
わたしはあなたのような魔法はできないから
ひたすらあなたに祈りを捧げていこう
H君も、まず、忙しくなった私に対して、言葉かけてくれました。
こんにちわ。先生が忙しくなって本当によかったです。僕はとても不安でした。なぜなら誰も先生やM先生を認めなければ僕やSさんの存在も永遠に認められないままになってしまうからです。
そして、小学部を卒業するに際して、作った詩を聞かせてくっれました。
卒業
ぼくは小学校を卒業した
まっさらなランドセルを買ってもらったのが昨日のようだ
まったく背負うことはなかったけれど
わずかなわずかな希望への道のようだった
またかあさんはがんばってぼくにかばんをくれた
まるで願いが詰め込まれているように
かばんはふっくらとふくらんでいる
わたしはよい中学生としてまた毎日を過ごしていこう。
最初にH君に会った時、彼は3才でしたが、大急ぎでひらがなを教えて、彼は少しずつパソコンで気持ちを表現し始めました。そして、それから3年後のある日、ベッドの脇に真新しいランドセルが置いてあったのです。今日という日だけを見つめていこうと考えて彼と接していた私に、未来を感じた鮮やかな瞬間だったので、私もランドセルをたいへん印象深く覚えていました。彼の言うとおり、そのランドセルに手を通すことはなかったけれど、彼の小学校生活をランドセルは見守って来たのでした。そして、詩を聞き取ったところで、目をベッドの脇の方にやると、そこに、すてきな青いリュックサックがありました。やさしくふっくらとした真新しいかばんに、また新しい未来が見えました。
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