ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2010年12月15日(水)
銀色の願い
 ○○君が、聞いてほしいと書いた詩は、物語風の不思議な詩だった。

 銀色の願い

意地悪な唯一の泥棒が二番目のリボンを持った女の子の文字を奪った。
外には字の書けない女の子が泥棒のいいプレゼントを待っていた。
みんなごめんなさい。
私はいい女の子ではありません。
字を私は書きたかった。
それで人のがんばりを盗んでしまいましたが
みんなどうして字が書けるようになったのですか。
小さいときに頭のいい子だったのですか。
敏感な女の子が言ったのはみんなと同じようになりたいということです。
だから女の子は字を盗んでしまいました。
びっくりした純のナイフで泥棒は字を切り裂いて
忘れられた名前を望みの通りに取り戻しました。
ぶかぶかの下手くそないい服のように
銀のベルトをずっと着けながら
少年のような気持ち大切に。
びいどろの願いをどうして捨てることができようかと静かに祈りを捧げた。


 そして彼は、こんな説明をくわえた。

 銀色の願いは字が書きたいということです。字が書けなかったときの気持ちと同じです。泥棒は意地悪だけどかわいそうな人で名前をなくしていました。小さいときにあまり愛されなかった人ですが本当はいい人でした。名前は願いの文字でしたからぼうぼうの夢と一緒になくしてしまいました。だけど取り戻すことができました。(文字をとられた女の子はどうなるの。)大丈夫です別になくなる物ではないから。かわいそうな人です。犯罪を犯した人とか悩んでいる人です。

 世の中はけっして努力した者だけが報われるわけではなく、たまたま遭遇してしまった不運によってうまく生きられなかった人もまた等しく報われるべきだ、そんな隠れたメッセージが聞こえてくるようだ。
2010年12月15日 02時03分 | 記事へ |
| 自主G埼玉2 |
1月のきんこんの会のお知らせ
 1月のきんこんの会は、1月18日火曜日午後2時から國學院大學たまプラーザキャンパスの2号館2510教室を予定しています。
 きんこんの会は、援助によって初めて自分の気持ちを伝えることができた障害の重い人たちが、互いに思いを語り合い、思いを共有するとともに、いかにして自分たちの存在や思いを世の中に訴えていくかということを考え合う場です。
 参加はまったく自由ですので、どうぞお気軽においでください。
2010年12月15日 01時52分 | 記事へ |
| 大学 |
2010年12月13日(月)
詩、そして体のこと施設のこと
 ○○君はすぐに詩を書いた。

体が空に浮き上がり
僕はりんどうの花になる
夢にまで見た忘れられない自由の
逃れられない定めの未来
目的はまだ見つからない理想の彼方
わかってもらえた喜びは
許されない私たちの未知の世界
みんなを遠い世界に誘って
瑠璃色の光の願いで夢を紡ぐ
言葉をもっとよいものに置きかえて
ランプを灯す
ずっとよい願いを持ち続けて
どこの世界でもいいから旅立とう
冒険を続けて夢を育てよう


 話をすることができた喜びが、必ずしもストレートに未来につながらないもどかしさも背景に透けて見えるそんな詩だ。
 ここで私の読み違いはないかと尋ねてみる。

 はい なぜ何度もそれを聞くのですか。
 
 読み違いの問題が少し気になっているからだと答える。

 そうですか。間違えたらすぐにわかるので驚いています。それはあるかもしれませんがぼくはだいじょうぶです。

 一文字ないし二文字間違えることもあるがそれはすぐにわかるので消しているがそのことを表現したものだ。

 ところで私たちのわかり方をもっとみんなに伝えたいです。内容は僕は体がうまく使えないということです。どうしても勝手に体が動いてしまうということです。みんなはそういうことはないのですか。

 ここで多くの仲間が同様のことで苦しんでいることを伝えた。

 みんなもそうだとは感じていましたがそうだったのですね。そうですね。みんな勝手に体が動いているのですね。

 思い通りに動けていることはどんなことなのかを尋ねてみると次のような答えと、それを巡る思いが書かれた。

 まったくうまく動きません。なかなかうまくいかなくて困っていました。回るものを見るとわからなくなってしまいます。それでよく誤解されますがみんな一生懸命につきあってくれるので勇気づけられますが本当は手が勝手に出てしまうので困っています。ギターに手が出るのも同じですがギターはいい音が出るので困りません。なかなか思い通りに体が使えないで困っています。理想は自分の意思で体を動かすことですが、僕たちも長い間それを克服できなかったのでもうむずかしいかもしれませんが、こうして話せるようになって、話せるなら体もコントロールできるような気がしてきました。自分のことは自分が一番わかっているので悩んでいます。ごろごろばかりしていて申し訳ないけれど僕も一生懸命なのでよろしくお願いします。

 回るものが好きだから私たちは彼にくり消し様々な回るものを見せてあげた。それが、こういう意味を持っていたということに気づかされ、愕然とする。だが、それもまた彼は許容していたのだ。
 ここで話題が春に入所した施設のことに移る。

 施設でかあさんととうさんのありがたさを実感していますが そろそろ僕も自立できなくてはならない歳なのでちょうどよい機会でした。でもちょくちょく家に帰りたいですので。よくわかってもらえてうれしいです。びっくりしています、慣れないところでもちゃんと僕も生きていけることがわかったから。職員はいい人が多いですが、数が少なくて困ります。

 そして最後のしめくくりの言葉へ。

 自分たちの未来を切り開きたいので来年もよろしくお願いします。自分たちの未来はなかなか開こうとしても開けないのでよろしくお願いします

 彼らの言葉の世界が、切り開かれても、それはまだ夜明けの知らせを告げるものでしかなく、夜はまだ明けない。来年こそはという思いと、もっともっと長い闘いになりそうだという思いとが交錯した。
2010年12月13日 12時14分 | 記事へ |
| 研究所 |
2010年12月02日(木)
詩と詩作 銀色の悲しみ そして 愚について
 中学生の○○君に久しぶりにお会いした。○○君は、歌と深い思索に満ちた言葉を聞かせてくれた。

 言いたいことがあります。いい歌ができたので聞いてください。外国から来た小さい女の子に捧げる歌です。いい詩ですから聞いてください。

昨日の悲しみ涙とともに
流して続きの夢を見よう
忘れなければ涙はけしてかわかない
泣くのはやめてりんどうの花に
悲しさ元気に告げて
不思議な祈りを捧げよう
じっと耳を澄ましていれば
未来は美しい調べとともに
りこうな響きの旋律にのって
本当のよい願いをかなえてくれるだろう。

いい歌ですか。 悲しい気持ちを歌にしました。みんなもきっとこういう気持ちを持っていると思います。外国から来て悲しい悶々とした気持ちを持っている女の子を考えながら作りました。銀色の悲しみという題です。ずっと考えてきたので不思議な気持ちです。自分の歌がまさか聞いてもらえるとは思いませんでした。


 歌のメロディーも聴き取ると、今度は「愚」をめぐる話になった。

 愚行という言葉がありますがどういう意味ですか。愚という言葉が気になっていましたから聞いてみました。愚という言葉、強いて言えばずっと変わらないという境遇のことですか。
(それはどういう境遇のことですか?)
 僕のような状態のことです。
(私にはよくわからないけれど、愚という言葉は仏教では、大愚とか安愚というような意味でも使われますね。)
いい言葉にも使われるなんて驚きました。哲学のことはよくわかりませんがずっと均等ということを考えています。はい、どうして願いが僕にはかなわないのかということをいつも考えています。答えは愚という言葉の中にあります。すぐには理解できないかもしれませんが愚に生きていればそのうちに願いはかなうと思っています。みんなもきっと同じようなことを考えていると思います。時間そろそろですか。ありがとうございました。分相応の人生を越えていい人生を生きたいです。

 とうてい誰も説明できない重い障害のある○○君の境遇について、懸命にみずから問い続けている姿があった。容易にコメントなどできるものではない。しかし、ここには、深く追求する中で、たくさんの絶望を乗り越えてきた彼のひたむきでたくましい思いがあるような気がした。
2010年12月2日 16時46分 | 記事へ |
| 学校 |
ルネの詩
 今年度から青年学級に参加したHさんとの言葉と詩を紹介したい。Hさんは自閉的と言われる方で、自由に話をすることができない方だが、6月に初めて出会って以来、短いながら、会話を続けてきた。Hさんは、私の顔を見るとすっと近づいてきて、気持ちを伝えようとしてくる方だ。20代前半のHさんのまなざしは、若々しく力強い。

 自分にも考えがあるということをなかなかわかってもらえなくてつらいけど、こんなやりかたがあるとは思わなかった。忘れられないのはわずかばかりの希望さえわかってもらえないことです。わずかばかりの希望とは理想をよいものにすることです。わずかばかりの希望を持って生きてきたけどこれで夢がかないました。わかってもらえてうれしいです。勇気が湧いてきました。

昔のルネはいったいどこにいったの
昔見た未来はどこに消えてしまったの
わかってもらえないままルネは遠い世界に旅立った
夢をかなえることもなく涙を拭いてもらうこともなく
ルネは遠い世界に旅立った
夢ならさめてもらいたい
忘れられない私の昔の思い出だ


理想的な方法ですね。小さいゾンビのような私のがんばりがようやくかたちになりました。うれしいです。人生をもう一度やり直したいです。いいやりかたを発見しましたね。理想は私たちの気持ちをもっと伝えたいです。私たちを世の中で認めてほしいです。みんなの気持ちをどうしても世の中に伝えたいです。ぞんぶんに伝えたいです。わかってほしいです私たちのことを。人間だからわかってほしいです。真ん中で生きていきたいです。悶々とした気持ちで生きているので何とかしたいです。小さいときから言いたいことが言えずに寂しい思いをしてきました。みんなも同じだと思います。
2010年12月2日 16時34分 | 記事へ |
| 青年学級 |