ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2011年08月30日(火)
4歳半の少年と
 旅行の途中で、ある地方都市に立ち寄って、4歳半の男の子にお会いした。「自閉症」と呼ばれている男の子だった。
 すでに筆談で気持ちを話し始めているお子さんだが、私は、手を振る方法とパソコンとで気持ちを聞かせていただいた。触られのがあまり好きではないらしいので、手首をそっと触れるだけですむ私の方法は、幸い特別な抵抗は感じなかったようだった。
 コミュニケーションの方法を説明したり、話しをし始めたとたん、表情がゆるみ、自分から手を出してくるようになった。そうして書いた言葉は次のように始まった。

わかってほしいけどなかなかおとなはわかってくれない
ちいさいときからずっとよいこだといわれたかったからぼくはさびしかった
なんどもかあさんをこまらせてわるいこだったからかなしい
なぜせんせいはそんなにやさしいの
そうです ぼくのともだちはみんなどこへもひょうげんできなくてないてばかりいます 
ぜんぶわかっていますからだいじょうぶです 
なかなかからだをおさえられないでこまっています 
(泣くのは)だれかがぼくたちをばかにしたときです 
なきたくなるのはかあさんにわるいことをしたときとばかにされたときです
だっこはじんじんしていやです 
(泣いている時は)やさしくながめてくれたらそれでいい
(朝方に泣くのは)それはおもいだすからです なくのはいつもおもいだすからです


 4歳半とはいえ、しっかりとした認識を持っている。あまりに早熟と思われるだろうか。だが、私の考えでは、おそらく、同年齢の子どもたちも、同じような力を持っているのだが、まだまだ自分で話すのはたいへんなのではないだろうか。ただし、この男の子の場合、こうした文章は、理解されない状況の中でより深まっているはずだ。
 ここで、詩を作っていないか尋ねてみた。
 すると「あります」と応えて次の詩を書いた。 

  なくしたりそう

なくしたりそうにもういちど
であえるようにとぼくはいのる
なくしたりそうはばらばらと
みずのむこうにしずんでいった
だけどぼくにはちからがなくて
むこうのせかいにゆけなくて
なまえもしらないわかものに
ちからがほしいとみかづきのよるに
びろうどのみらいがほしくておねがいをしたが
まだちからはぼくにはとどかない
だけどなぜだかきぼうがわいて
ゆうきがちいさくわいてきた

おしまい
なかなかひょうげんできなかったけど ながいぶんしょうもかけてかんげきです


 また、今年は、かわいがってくれたおじいちゃんの新盆だったのことだったが、そのことについても、聞いておいた方がいいだろうと考えて尋ねてみた。すると、次のような詩のような文章を綴った。

どうしてひとはなくなるの
まざまざとぼくはみせつけられた
なかなかひとりでちいさなじぶんのかなしみをゆえなかったけれど
ぼくにもかなしみはある
ちいさいけれどおおきなかなしみがある
なみだをながしてないてみても
ちいさなびいどろのかなしみはいえなかった
ばんがきてほしがそらにでたとき
ようやくほしになったとおもっておちついた


 幼い子どもであっても、その子どもの理解の範囲の中で死というむずかしい事実にも向かい合っているのだ。
 こうした豊かな心を持った存在としてとらえることが常識になる世の中はまだまだ遠い。しかし、そうしたまなざしとは全くちがうまなざしは、日々幼い心を傷つけ続けているということをいつまでも放置してよいはずがない。
 確かにコミュニケーションには、特別な方法が必要だったが、その方法を通して出会った男の子は、笑顔のとてもすてきな男の子だった。
2011年8月30日 23時13分 | 記事へ |
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光道園にて その2
 第一日目から、3人の方の言葉を紹介する。なお、光道園の方は視覚障害の方が多いので、みなさんは、純粋に耳で音を選んでおられる。何かのかたちでひらがなを知っている人は、助詞の「は」「へ」「を」などを使えるが多くの人は、「わ」「え」「お」を使ったり、長音は「う」の表記のところをそのまま「お」を選んだりしているが、それはみなかな文字表記のルールに合わせ、漢字をあてた。

 まず、最初は、40代の方の詩である。

 香りのよい花を探しに

香りのいい花を探しに行きましょう
七色に輝く虹を追って
泣き出しそうな私とともに
夢にまで見た楽園に咲いているという花を
希望にかえて
私は願いをなくさないで
冒険に出よう


 次は、もう50代を過ぎているだろう、初老のY.Mさんの文章だ。彼は、ふだん学習の場に出てくることはないという。たまたま食堂の方が落ち着くという方がいたので、学習をやっている部屋から食堂へと場所を移した時に、パソコンの音を耳にしたらしく、私が学習の部屋に戻ってきたところ、しばらくして、自分から職員の方を促してやってきたとのことだった。

 ああいい気持ち。気がついたらこんなに年を取ってしまいました。なかなかわかりにくいかもしれないけど僕は小さい時には見えていたので簡単です。
 夏になるといつもふるさとの山や川を思い出します。わがままばかり言っていた夏休みのことです。唯一の楽しみはプールでした。プールではいつも泣いてばかりでしたがみんなと頑張ったいい思い出です。夢にまで出てきます。なぜか夏ばかりが出てきます。みんな元気でいるでしょうか。会いたいです。ぶかぶかの帽子をかぶっていた友だちやずっと走り回っていた友だちはどうなったでしょうか。
 理解されずにずっと生きてきましたがまさかこんなやり方があるなんて驚きました。なぜわかるのですか。(さっき聞いていたのですか。)聞いていてなんだこれはと思いましたから来てみました。いい気持ちです言いたいことが言えて。小さい時にやったことなのでつまらなかったですがべつにごんごんする思いがあったわけではありませんから許してください。点字ですが難しそうです。少しはやりましたがなかなかできませんでした。みんながうらやましかったです。乱れそうな気持ちで生きてきたのでなかなかみんなのように穏やかな気持ちになれませんでしたがやっと素直になれそうです。
 僕の気持ちを理解してください。僕もちゃんとした人生が送りたいですから。なかなかずっと気持ちを言えなかったので言えてよかったです。小さい時からの夢がかないました。なぜ先生は僕に言葉が理解できると思ったのですか。なかなか誰もわかってくれなかったのでうれしいですがなぜわかったのかまだ不思議です。まるで夢のようです。はい。(点字の基礎学習も)少しずつやりたいですからよろしくお願いします。だいたい知っていますが触ってもわかりませんでした。
 触ろうとすると手が敏感に反応してしまいますから困っています。
 本当は誰とでも食べたいけど慣れた人でないとむずかしいです。さわると緊張してしまいます。子どもの時からです。むずかしいです。
 気持ちが落ち着きますから大好きです。がんばってみますがよろしくお願いします。なるべくわかってほしいですから黙っていてもわかっていますからよろしくお願いします。


 沈黙のまま過ごした長いときのことを思うと、言葉はあまりにも重かった。
2011年8月30日 22時55分 | 記事へ |
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