ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

»くわしく見る
2012年03月03日(土)
大雪の日の病棟 その2
 同じ病室のもう一人の少年は、ひとしきり、なかなか理解されない状況を嘆いたあと、用意していた俳句を一気に綴った。

誰一人 泣く者のなき のどかな日
唯一の目 われに注げり ぬくもりは
つらき道 長く続けり 降れる雪
微妙な夜 小さく機械の音響く
ぶんどらず みんなで分かつ よき報せ
ぶよぶよの体を乗せたベッドに日
わずかな身留守の守人わだかまる
小さな身とは小さい子どものことでみんな買い物に行ってしまって留守番の寂しさを読みました。子どものことです。
小さき手二本伸ばして空を抱く
美の果ての忘れられない願い事
雪に舞う希望積もりて静かな夜
南風夜の窓辺のわずかな音
南風吹く日の遅れどんより雲

人間に認められし日 よき牡丹
ずる休み道草のなき願い楽
小さき花人にあげたしリンドウを
なぜ逃げぬ雀理解者われを見る
わずかな輪広がり見せて笑い頰
理解され誰もが人と見られる日
理想の輪なぜ広がらぬろうそく揺れる
わだかまり増える日花のしおれゆく
人間と見る人にランプの光射す
よく眠り目覚めた朝に罠はなし
利害なく人働ける病院は
道なきをこれまで歩みてつながる命
なぜ涙あふれてきたかやさしき手
ぬくもりは願うろうそく満ちて光る
密の味わからないまま残る人
黙ったまま看護してくれる人たちのことです。
西日射しわずかに残る日に望む
わずかな帆あげて小さな舟出ずる
読んだ本積まれしベッドのたわみ増え
理想なき何人(なんびと)もここにはとどまれず
勇気の火ともりて南の風に乗る
南風待つ鳥の目に誓い
びろうどに人はまといて理想語る


 限られた病室の空間の中で想像の羽根を思い切り羽ばたかせて広大なイメージの世界を翔け回って書かれた俳句である。
2012年3月3日 20時36分 | 記事へ |
| 小児科病棟 |
大雪の日の病棟 その1
 明日から3月だという日、関東平野に大雪が降った。少年と女子高生の待つ病棟の窓からも、一面の銀世界が見渡せた。
 ☆☆さんは、いきなり詩から始まった。

  七つの花

七つの花に私は黙ったままぼんやりと望みを託す
七つの花は誰にも見えなくてひっそりと咲いている
七つの花は私だけにしか見ることはできない
わずかな冒険しか知らない私にとって
七つの花は理解されない寂しさをどうにか慰めてくれようとして
七つの涙を流してくれた
私にとって七つの涙は勇気をくれる不思議な涙
私を黙って未来へと誘う
わずかなあかりが射している
わずかな夢がにおっている
七つの花をめでながら
私はごんごんとしたつらい思いを忘れる


 そして次のようなコメントが続いた。

 理想的な花をいつも夢見てはわずかな「ぞうねん」をなくそうと心がけています。

 「ぞうねん」という言葉が出てきたとき、おそらく雑念という漢字があてられるのだろうと思ったが、現在は十分に文字を見ることのできない彼女があきらかに漢字を前提にして言葉を選んでいるので、立ち止まって、「ぞう」という言葉はたぶん漢字をイメージしていると思うけれど、その漢字の別の読みはと尋ねてみた。すると明確な答えと、言葉が続いた。

 ざつ ほんとうは漢字は見えませんがわかります。なぜなら私にも小さいときからの記憶があって見えていたからです。だいたいのイメージはあります。はい。漢字もけっこう覚えていました。だけどだれも知りませんでした。私たちにもなんでも理解できる知性があるとはだれも考えなかったからです。

 ここで一緒に病室を訪れていたM先生が語りかける。
「私の小学生の孫なんて学年の漢字を覚えるのがやっとなのに」
 すると、

だって私たちには時間が山のようにあるからです。時間が足りないのだとおもいますお孫さんは。遊びにいそがしくて漢字など覚えるひまがないと思います。

 M先生からの質問が続く。
「漢字は何で覚えたの?」

 テレビです。テレビにはむずかしい漢字がいっぱい出ますから覚えました。テレビは音が出るので聞かなくてもわかります。ママはテレビをよく私と見ていましたから。たぶん私たちは疑問があっても聞けないし勉強も教えてもらえないからなんでも一人で勉強しなくてはいけなかったのです。だから一人で覚えるのは慣れています。(今はテレビは見えないけれど隣のベッドの)○○くんのラジオが聞こえるのでだいじょうぶです。

 そして、次の言葉へとつながっていった。

 政治の話は大好きです。どうしてかというと私たちにとって政治はとてもかかわりが深いからです。なぜ病院の予算がけずられてしまうのかなどとても大事な話だからです。野田首相は初めての政治家です。私たちのような存在を取り上げてくれた政治家は。みんなきれいごとは言うけれど初めて本気でとりあげてくれました。みんなの希望の星です。小さい記事のなかですが忘れられない話でした。涙が出るくらいうれしかったです。ラジオです、ラジオのニュースでした。 

 まさしく仙台の大越桂さんの話だった。そこで、そのことにふれ、パソコンの中にあった「花の冠」の合唱の映像を聞かせてあげた。

 いい歌ですね。私にもそういう希望の種がとどきました。わずかではあっても私たちのことが理解されてうれしいです。小さいころからだれにも理解されなくてずっと悲しかったけれど私にも自信がわいてきました。わずかな望みですが理解される世界が一歩またちかづきましたね。 

 そして、この後、大越さんにあてて、すてきな手紙が書かれた。
 
2012年3月3日 20時05分 | 記事へ |
| 小児科病棟 |