活動の後、多くの仲間たちは、場所を「トマトハウス」という喫茶店に移して、お茶を飲んだり歌を歌ったりする。喫茶店はお休みだが、場所だけを借りているのだ。
そこに、来ていたKさんにも、パソコンを出してみることにした。Kさんは、かつて、作文などもたくみに綴っていた方だが、進行性の障害のために、10年くらい前から、歩くことも、話すこともできなくなり、認識の面でも障害が進行したと考えられてきた方だ。お母さんをALSで亡くし、最近お父さんも亡くなられた。現在は町田市内の施設で暮らす。毎回、スタッフがボランティアで送迎をしてきた。
最初に、すぐに綴った言葉。
これ かいたい
いくらするの
横にいた送迎をした女性スタッフに対して
とてもていねいでかんしゃしています
さらに気持ちが綴られていった。
じぶんでかけてうれしい
いままでつまらなかった
しゃべることができなくなって りかいしてもらえなくなってなきたいきもちでした
きもちがきんじられてこまっていました
おかあさんがなくなったときも おとうさんがなくなったときも はなしができなくて すさみ もらいなきさえできませんでした
せっかくことばがはなせるのだから しっかりいいたいことをいっていきたいです
ちいさいときからくよくよしてきたので ここでげんきなじぶんにうまれかわりたいです
でもなかなかうまくいかないかもしれないので ずっとおうえんしてください
それからよかったらこのすいっちをゆずってください
ゆめをみているようなきもちです
きもちをかけるとはおもいませんでした
げんじつではかんがえられませんでした
うきうきします
すてき
さけびだしたいきもちをおさえるのでせいいっぱいです
さらに、文章は、あるすさまじさを帯びてくる。
ぬいぐるみのじんせいにおわかれです
しぬまでいまのままだとおもってきたから ぬいぐるみのじんせいにかわって となりのととろのようによろこびをかんじながらいきていきたいです
このぬいぐるみのじんせいは できないことがいっぱいですが もうおわかれです
けうなればこそ くなんのじんせいですが いきていくいみがあるとおもいます
とりかえしのつかないおもいがありますが ねらいどおりのこころでがんばりたいとおもいます
けっしてあきらめずに ねがいどおりのじんせいをいきていきたいとおもいます
施設に戻る時間が近づいていた。そして、最後にこう書いた。
またやりたいです
40歳を越えた彼女と、これから、失われた時間を取り戻しながら、関わりを続けていかなければと思う。
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2008年7月7日 08時30分
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町田市障がい者青年学級での、起こったできごとから。
Mさんは、20代後半の男性で、学級ではいちばん障害が重いとされる人だ。学級に来るようになって5年ほどになるだろうか。最初は、まったくコミュニケーションがとれず、食事も口にしてもらえなかった。それが、少しずつ、こちらの言葉かけに答えてくるようになり、今は、食事も、食べてもらえるようになった。しかし、いったい、どんな心の世界が広がっているのか、未知数のまま、関わりは進んでいた。その彼に、昼食後、2スイッチワープロを出してみた。あまりにも遅すぎる挑戦だった。彼は、すぐにすらすらと文章を綴り始めた。
まず、始めに綴った言葉。
すてきなすいっちですね
くふうしていますね
これならできそうてす
うれしいです
彼がパソコンに綴るのを見て、感激した二人の女性に対して、何か一言書いてと言ったら
かわいい
あかるい
とそれぞれに返ってきた。
そして、彼の子ども時代から学童のグループなどで関わってきた先輩の学級生の女性(このときも、ずっと横で彼のことを見守っていた)に対して、
これまでいろいろありがとう
と綴った。
午後の活動が始まると、コースの仲間へこう伝えた。
いつもいっしょにかつどうしてくれてありがとう
すてきなうたがたくさんできましたね
くるしいきもちのかしはつらいけど うちかっていきましょう
すてきなかしですね
それぞれのみちをつくったときはやすんでいてざんねんでした
ことしはどんなかんじのうたをつくりますか
めのまえのくるしみだけでなくのぞみがわくようなうたがつくりたいです。
午前中の活動で、昨年度、2つのコースで作った歌「フォゲットダンス」と「それぞれの道」という歌を繰り返し歌っていたことを受けたものだ。学級ではめずらしく、この2曲は、みんなのつらい思いを歌にしたものだったので出てきた言葉である。
活動に参加しながら、パソコンで言葉を綴り続けた彼は、さらにこう語った。
ふしぎです
なぜかきもちがことばになっていきます
かのうせいはあるとはおもいませんでした
のぞんでもだめだとおもっていました
うたがうたえたらいいなとおもってきました
どうしたらうたえるか かんがえてきました
のぞんでもなかなかかないませんでした
そして、みんながメロディータウンという歌を歌い始めると、彼も、パソコンで歌うように、歌詞を綴っていった。歌のスピードにはついていけないが、歌い終わるまでに一番の歌詞を綴ることができた。
ながれるめろでいにゆめをのせて
いまわたしがかなでるわたしのうた
そして、また、活動に平行しながら気持ちが綴られる。
わかっていたけどことばではなせるとはおもいせんでした
ほんとうにかんどうしています
のぞみがかなってうれしいです
すばらしいですてがつかえるとはおもいませんでした
のぞみでした
ねがいをかなえられてしあわせです
うれしいです
「私のことはどう思いますか」と問いかけた若い女子学生のスタッフには、こんな言葉を綴った。
かわいいです
ひろいこころのもちぬしですね
けっこんしてください
でもよわいときにはたすけてあげましょう
おとこだからつよくないといけません
でもぼくにはちからがないからだめですね
めいわくをかけてしまいますね
すみませんぼくのかってなきもちだけをいってしまって
もうやめます
ねがいはふたりでどこかにでかけることです
ごめんなさい
だれでもいいです
そして、歌う歌のリクエストが始まると、
ともだちのうた
わたしのくるまいすおしてくれる
ともだちといっしょに
まちにでたいのところがすきです
以前から、彼は、この歌を好んでいた。
そこへ、他のコースが、七夕の短冊をもって、みんなも願い事を書いてほしいと入ってきた。彼も、願い事を書くことにした。
願い事は、
すなおなひとになりたいとおもいます
そしてさらにこう続ける。
ねがいごとがかけてかんげきしています
じぶんのことばでかけたのははじめてです
いいです じぶんできもちをあらわすことができて
うれしいです
活動は、もう終わりの時間が近づいていた。
きいてくれてありがとうございます
うたのかしをかんがえてくるのでよろしくおねがいします
帰りの集いで、今日のこのMさんの快挙についてみんなに報告した。誰もが、このことを喜んでくれた。この場所には、疑いのまなざしを向ける人は一人もいなかった。誰もが、心から、彼の喜びを共有していた。
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2008年7月7日 08時19分
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