隔月で通う通所施設に、電動車イスを駆使して町中を巡り、数々の武勇伝を持つ方がいる。基本的なコミュニケーションは、指で丸を作って空中に差し上げる気持ちのいいイエスを初めとして、指さしなどの身振りを交え、ほぼスムーズにできる。もうこの施設に通い始めて数年になるが、世間話はするものの、あえてパソコンを介して関わる対象とは、お互いに考えてなかったように思う。そんな中、初めて、彼に2スイッチワープロを出した。2つ並べたスイッチをゆっくり押し分けることは十分に一人でできると思ったが、そのスピードで表現できることだと、身振りを越えることはないと思ったので、力をあえて抜いて、スライドスイッチの棒の取っ手に手をかけてもらい、こちらがリズミカルにオンオフを繰り返す中で、彼の微妙な力を読み取る方法で挑戦した。以下、彼の文章である。
すごいすいっちがすいすいうごく
うれしい ください
すいっちがこうなったのはどうして
(一人でスイッチを動かして試してもらうと滑りすぎてうまくいかなかったのを受けて)
つよくうごかすとうまくいかないのがふしぎです
つよいうごきのすいっちはありますか
(今は、持っていないということを告げ、続けてもらう)
ふしぎです
おもっただけでことばになっていくこのやりかたをだれがかんがえたの
すばらしい
(このスイッチで、この通所施設の障害の重い方々の言葉を聞き取っていることを説明すると)
かれらにことばがあるとはおもわなかった
このやりかたはすごい
すいっちをたくさんつくってください
つらいきもちでまいにちをすごしているひとがたくさんいるのでがんばってください
こんなことがみぢかでおこるとは
たくさんのコミュニケーション手段を持つ彼の言葉だからこそ、また貴重でもあった。そして、強い励ましの言葉がうれしかった。
いつも、どちらかと言えばいたずらっぽいおどけ役を演じている彼の、本当の心がかいま見えたように思えた。
「本当はまじめな人なんですよね」と声をかけると、空中に指で作った丸が高く差し上げられた。
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2008年10月5日 08時09分
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通所施設 |
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不思議な心象風景を語ってもらった。20歳を過ぎた☆☆さんの文章だ。
したいあそびがあります
とおいところにいって すなにもじやえをかいて においのいっぱいかおるはなをさかせたいのに いじわるなおばあさんがよこからやってきて すなをけちらしてしまった。
ないてばかりはいられないので こんどは においがしない さむいはなをじめんいっぱいにえがいていて ぬりえのようにさいたので うちゅうにらくえんをつくろうと めをみはるようなわたしのみらいにむかって がんばろうとおもった。
けちらされてもまた未来に向かってがんばろうという思いを、豊かなイメージで飾って描き出したものだ。お母さんは、しきりにどうしてこんなに息の長い文章が書けるのかとおっしゃる。しかし、彼女は小さいときからたくさん絵本を読んでもらってきた。私が絵本のソフトを作ったきっかけは、文字の学習にそっぽを向く彼女のためであった。彼女のイメージの世界を育んできたのは、こうしたご両親の働きかけによるところが多いことはまちがいない。
後半、☆☆さんは、こんなことも語った。嫌いな音楽があって、怒りだすとお母さんがおっしゃったので、そのことについて尋ねたのだ。
からだにちからがはいるのはつかれたときびっくりしたためです。
えんかはきらいです
いやなきもちになりますがおこっているのではありません
そしてお母さんについてこう付け加えた。
りかいしてくれているのでたすかります
とてもりそうてきなおかあさんです
プリントアウトしてお母さんにお渡しすると、これ、大切にしてがんばろうとおっしゃっていた。
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2008年10月5日 00時10分
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自主G23区1 |
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