ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年11月08日(土)
しあわせなつばさできっとそらたかくとべるでしょう
 小学校4年生の少年が、こんな文章を綴った。

ゆめにすてきなおんなのこがあらわれていいました
こどものねがいはいつまでたってもきえないかとおもっていたら すぐにおとなになってしまいますよ
だからきをつけなさい
こどものじかんをだいじにしなさい
よくねがいをきいてくれたら しあわせなつばさできっとそらたかくとべるでしょう
きっといきやすいいきかたができる
ねがいどおりにくらしていくことができるでしょう
しんじつはわかりにくいけど てをのばせばとどくところにあって かならずてにいれることができるでしょう
そのためには こどもじだいのゆめをすてないようにして じかんにながされることのないように いまをたいせつにしていきることがだいじです
きっといつかきぼうのかなうせかいがおとずれるでしょう

 夢に出てきた女の子とは、どうやら、小学校にあがる前に知っていた女の子と関係があるらしい。彼は、今度、彼女の学校の文化祭に行くとのことで(二人は別の特別支援学校に通っている)、そのことを母同士が電話で打ち合わせていた日の夜、じっと何か考え事をするようにしていたらしい。
2008年11月8日 23時20分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 自主G埼玉2 |
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すぐにやってくれてすごくうれしかった―お父さんへ―
 都内の通所施設でのできごと。6月に初めて文章を綴り、9月にご両親が見に来られた◇◇◇さん。さっそく、おうちでも取り組み、自由に気持ちを伝えられるようになっていた。日記として、ほとんど毎日パソコンに向かって来られたとのこと。とても、励まされる話だった。
 いただいた日記は、ご両親との会話が満載だった。祖父母への手紙、東京ディズニーランドの話、成人式の衣装の話、通所施設でのハロウィンの行事の話などなど。喜びがひしひしと伝わってくる日記だった。その中に、自由に書かれたものとして、繰り返し出てきたのは、ご両親への感謝の言葉だった。いちばん言いたくても言えなかったことが、この言葉だったのだとつくづく思う。
 この日は、おとうさんにまずやっていただいて、私が代わった。すでに相当なスピードでうてるようになっておられるのだが、どうやって、さらにスピードをあげるかということを伝えるためだった。

◇◇◇(名前)。ありがとう。

 ここまで、お父さんと書いて、私に交代。

みてくださってかんしゃしています。

 ていねいな言葉遣いにお母さんが思わず感激。

つかいやすいです。ていこうがないのでかんたんです。
うれしいです。かんがえただけでことばがでてくる。
のぞみはみんなとはなせるようになることです。
このやりかたをみんなにおしえてあげてください。
すぴーどがはやいのでらくです。はやいほうがとてもつかれません。すばらしいです。
しんじてもらえてうれしいです。

 ここで、文章のトーンが変わった。

ねがいはすなおなひとになることです。

 今でもとてもすなおだよというご両親の言葉かけを受けながら、こう続けた。

だれとでもしょくじができることやせまいきもちにならないことです。すなおなきもちのひとがこどものころからのゆめでした。

 言葉を話せないという状況では、受け入れられないことを、ていねいに断るということはできず、断固とした拒否というかたちでしか表現することができないことも少なくない。私も、そういう拒否にいろいろな場面で出会ってきたが、まさか、本当はすなおにすべてを受け入れるような人でいたいのに、拒否せざるをえないことに、本人自身が傷ついているとは、思ってもみなかった。ハンディは、すなおに生きたいという夢さえ簡単にはかなえさせてくれないのだ。

どうしてしばたせんせいはわたしがことばのりかいがあることがわかったのですか。おしえてください。

 多くの方々が問いかけてくる質問だ。答えはいつも同じだ。わからなかった私に切実に訴えてきた方々の力によって、ようやく言葉の存在がわかるようになったということだ。扉を開いたのは私ではない。知らず知らずのうちに押さえつけてしまっていた扉は、そういう方々によってこじあけるようにして開かれたのである。
 そして、最後にこう綴った。

しばたせんせいのおかげでじがかけるようになれたのでかんしゃしています。
おとうさんにもとてもかんしゃしています。
すぐにやってくれてすごくうれしかったー

 
2008年11月8日 09時54分 | 記事へ | コメント(1) | トラックバック(0) |
| 通所施設 |
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ともだちはわかってくれたけどおとなはりかいしてくれません
 都内の通所施設でのできごと。
 ずっと気にかかっていて、関わることのできなかった○○さんと、ようやく関わることができた。簡単な言葉を発してはいたが、どこまで、そのような力を秘めているかは、まったく予想はできなかった。ただ、これまでも、仲間がパソコンで文字を綴るのを遠くから、鋭く訴えるようなまなざしで見ているようなことがあることが、とても心にひっかかっていた。
 そして、実際に取り組んでみると、一気に文章を綴り始めた。

てをつかえるなんておもわなかった
このすいっちがほしいです
ください いくらしますか かいたいです
ねがっていました じぶんでかけるようになることを
かのうせいをしんじてくれてありがとうございます
こんなにすぐにかけるとはおもいませんでした
しんじられません
なぜことばがりかいできるとわかったのですか
ともだちはわかってくれたけどおとなはりかいしてくれませんでした
がっこうのともだちです
×××しょうがっこうです
つかれませんすいっちがかるいので
すばらしいです このほうほうは。
あしたのきぼうがわいてきました

 そして、このことを横でずっと見守りながら、応援をし続けていた車いすの▽▽さんに向かって、次のような言葉をかけた。

いちばんうれしいのは▽▽さんがよろこんでくれることです
すてきなともだちです
こんどいっしょにおちゃをのみにいきましょう

きぼうがわいてきました
ついにてをつかうことができました
うれしいです
じぶんでかいていてもじぶんでかいているきがしません

 ところで、この通所施設には、2階に別の部門があり、そこに、私がかつて、関わったことのある◇◇さんがいる。彼女とは、この施設ができる前に、彼女が以前通っていた施設で関わったが、こちらでは、関わりは途絶えている。その彼女のことが突然語られたのだ。

うえのかいにいる◇◇さんがいっていました
ことばをきいてくれるひとがいるときいていましたがしらないのでわすれていました
◇◇さんはわたしのいえのちかくにすんでいます

 ここで、本人から聞いたのかお母さんから聞いたのかと尋ねると、

ほんにんからです

と返ってきた。

かんげきしています
けしてこどくではありませんがしんゆうは◇◇さんだけです

 ◇◇さんは、かつてこんな文を書いた人である。ちょうど3年前の11月のことだ。当時は、今ほどに長い文章を綴る方法を発見していなかった。

◇◇(自分の名前)かわいいさ うれしい 
くすりのみたくないから かあさんくすりへらしてください。

 発作のコントロールのため薬をたくさん飲んでいて、いつもうつろな表情をしていたが、いったんスイッチを押すと、こんな文章を書いて、周囲を大変驚かせたのだ。
 けっしてわかりやすい発声ができるわけでもない◇◇さんが、○○さんにこうしたことを教えていたというのだ。誰も知らないところで交わされていた二人だけの会話があったというそのことが、何か切なさをもって迫ってきた。
 一方、話は、さらに大きな夢へと向かっていく。

もしねがいがかなうならいいひとといっしょにくらしたい
けっこんだってしてみたい
りそうのひとはかっこよくてやさしいひとです
おとこのひとです
そんなひとがあらわれることをしんじています
すてきでしょう?

 20代の女性として、当然の思いだ。「すてきでしょう?」という言葉が、彼女の笑顔と響きあっていた。

2008年11月8日 00時51分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
| 通所施設 |
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