ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2008年12月11日(木)
青年学級にて ―その4
 2日目の昼食後、H.Nさんがパソコンで綴るのを遠目で見ていたK.Kさんと目があった。鋭いまなざしは、僕にもやらせろと訴えていたようだった。もう、帰りの時間は近かったが、パソコンを抱えて彼の近くにいった。彼は、発作が頻発する方だが、歩くこともできるし、簡単な言葉は話す。また、文字を書くことにもこれまで何度も意欲を示し、今ひとつ、成果が出なかった経緯もある。「やってみますか」という問いに満面の笑みで答えた。

きのうきたばかりなのに、もうかえるの。
いいところだから、もっといたい。
ほっさはいやです。きをうしなってしまいます。
ちいさいときからじぶんではなせたらいいとおもっていました。
このきかいがほしいです。きもちいいです。
ねがっていました、きもちをことばでいえるようになることを。
いいきぶんです。きもちいいです。
おかあさんいつもありがとうございます。
いつもいいなとおもってきました。
いいたいことがえるひとがいいなとおもってきました。
いいたいことがいえることが。
みんなとはなしがしたいです。

 短い時間に書けた言葉は、以上だったが、これからの可能性がはっきりと示されていた。
 バスが到着した広場に迎えに来ていたお母さんと、このことを話していると、本当に、言い笑顔を終始し続けていた。
 そして、お母さんも、「これ、本当に、彼の気持ちだわ。」とおっしゃっていた。
 まだまだ、たくさんのことがこれから語られていくだろう。
 これからの新しい展開が楽しみだ。
2008年12月11日 08時49分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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青年学級にて ―その3
 合宿の朝、目を覚ますと、私のすぐ横にH.Kさんが寝ていた。彼のコースは、広いホールで寝るはずだったが、和室がいいとやってきたのだった。彼は、寡黙な人で、かすれたような声で、時折、単語を発することがあるが、その多くは聞き取れない。しかし、特別な肢体不自由があるわけではない。子どもの時は声は出ていたが、思春期以降、話さなくなったと言われてきた人だ。起き抜けに、彼の姿を見つけたので、朝の身支度をそこそこに、彼にパソコンを出してみた。すると、にっこりと笑って、文章を綴り始めた。私は、夢の続きを見ているような気分だった。

きもちいいちからがでる。きもちのたのしさがすてき。ながくはなしてこなかったからうれしい。

 どうして話せなくなったのと尋ねると、

わからない。
きもちがつたえたかった、にんげんだから。じぶんのままでいたい。にんげんだから、じぶんにちゅうじつでいたい。じぶんにいつもいのっていたい。きっといつかはなせるときがくるとおもっていた。いつかきもちをはなせたらいいとおもってきた。

 彼は、以前、毎回学級の帰りに、喫茶店に寄り、チョコパフェを食べるのが常だった。私もよくつきあったが、高坂茂さんという、この学級の大先輩で、2000年に職場の自己で亡くなった方が、彼を伴って二人でよくチョコパフェを食べに行っていた。そこで、高坂さんのことを尋ねてみた。

おぼえている。とてもやさしくしてくれてうれしかったけど、しんでしまってざんねんだった。きのどくだった。いいひとだったからくやしい。たのしいおもいでがいっぱいあります。いつもいっしょにきっさてんにいってくれた。いいひとでした。いいひとがいなくなってかなしい。こうさかくん、きっとじきがわるかった。なぜしんでしまったのだろう、くやしい。

 そして、もう、定番になった問いを投げかけた、「詩を作ったことはありますか。」と。そして、綴られた詩と言葉。

じぶんでつくったし

いきていくことはいつもしんどい
いつもおもたい
きっときぼうのきせつがやってくる
きっといつかきぼうのきせつがあるだろう
きぼうのきせついつきてくれるのか
じぶんにもくるのだろうか
きぼうのきせつは
じぶんにもくるのだろうか
きぼうのきせつは。

 そして、午前の活動へと移っていった。
 昼ご飯の後、スタッフが、家に電話したら、お母さんがとても喜んでいたとおっしゃっていたとのことだったので、お昼のひとときを使って、お母さんへのメッセージを書いてもらった。 

きのういいことがありました。きのうがっしゅくでしばたさんといいことがありました。きのうがっしゅくでてでことばをはなしました。ちいさいときははなしができていたけど、こえがでなくなってしまいました。しばたさんとぱそこんできもちをことばにすることができました。にんげんだからいつもときどきにんげんとしてあつかってもらいたいとおもってきました。きもちがきいてほしかった。しんじてほしかった。
ついにねがいがかないました。いいきぶんです。きもちがつたえられてうれしいです。きもちがつたえられてよかったです。いいかあさんでよかったです。すばらしいです。

 バスが到着した広場に、お母さんが、お迎えに見えていた。「きのう」は今朝のことですとことわりながら、この長い文章を見せた。しゃべれなくなて、ずっと気持ちを知りたいと思ってきたとおっしゃったお母さんは、目を細めてこの文章をご覧になっていた。
2008年12月11日 07時49分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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青年学級の合宿から ―その2―
 「あなにいた」という言葉を綴って私たちを驚かせたK.Tさんと1日目の夜、話を交わした。

わかってくれてうれしい。きぼうがでてきました。きぼうがわいてきました。ねがいはだれとでもできるようになることです。いつかはなせるひがくるとしんじていました。

 そして、次のような言葉が語られた。

かったばかりのさんだるをきずつけてしまったみたいでかなしかった。きっときれいなさんだるをかえるとおもってなかったけど、かえてうれしいきぶんです。

 すごい表現だねと驚きを伝えると、簡単な単語はしゃべれる彼は、「まだあるよー。」とにっこり笑いながら次の文章を綴った。

きっとかりれないてぶくろを、かりれたようなきぶんだよ。

 そして、女の子の話に及ぶ。

とかいのいいかみをしたこがすきです。きれいなおんなのこがすきです。にしだひかるがすきです。

 さらに重い話に。

ぬいぐるみのじんせいしかおくれないとおもってきたけど、いいじんせいになりそうです。いいこどもになれそうです。しんらいこそがたいせつです。ちいさいときやしょうがっこうのときは、きっとはなせるようになるとしんじていたけど、こうこうじだいにはあきらめていました。しんじられないきもちです、いまのじぶんが。りかいできてもしゃべることができない。

 そして、彼の美しい比喩表現や重い言葉に、「詩を作ったことはありますか?」という問いを投げかけ、「今、書ける詩はありますか?」と問いを続けた。そして、次の長い詩が綴られた。

きたからふくかぜにきいてみよう
いまどこにしあわせはありますか
きたからふくかぜにきいてみよう
きれいなこころのひとはどこにいますか
しろいゆきみたいなきれいなこころはきたのくににあるのですか
きれいなきせつがたのしみです
きれいなきせつがまちどおしいです
いつかきれいなひとにであいたい
いつかきれいなきせつとぎんせかいでであいたい
きれいなきせつとすてきないのちをつたえたい
つよいきせつとなきむしのきせつとぎんせかいでであいたい
ねがいのすてきないのちをつたえたい
いのちもちがいがあるようにきれいなきせつもちがっている
ひとのいのちもちがっている
きたからふくかぜにきいてみよう
きたからふくかぜにきいてみよう
しんじていればかならずきもちはつたわりますか
しんじていればかならずきもちはさびしくないですか
いつもいつもきたかぜにしんじたい
きぼうのきたかぜに くなんのじかんは きたかぜに みらいへのきぼうとして
げきのように びたち(美たち?)のようにかえてもらおう
にしからふくかぜと 
ひがしからふくかぜと
みなみからふくかぜにも きいてみよう 
しんじていればきぼうはかないますかと
きぼうはかぜにのってやってきますかと
ときどききぼうのかぜがみえなくてきもちがしずんでしまうけど 
きぼうのかぜはきっときたからまたきっとふくだろう
みたこともないきたからのかぜをきぼうとともにきたいして
きぼうとともにゆめみていよう
いつかきっと いつかきっと。

 そして、詩を作っている時の気持ちが次のように書かれた。

しをつくっているときもちがはれる、きもちがきれいになる、いいきもちになる。
 
 合宿の夜のお菓子と飲み物をはさんだ交流会の場で、お菓子を時折食べながら、過ぎていったひとときのできごとだった。

  
2008年12月11日 07時30分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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青年学級の合宿(12月6日、7日)から―その1
 夏の豪雨の影響で発生した土砂崩れのために、今年の青年学級合宿は、12月へとずれこんだ。合宿場である町田市郊外の山間にある青少年センターは、紅葉の名残を残しながらも、すっかり冬の装いだった。
 今年の合宿は、特別だった。7月以降、これまで沈黙してきた人たちが何人もパソコンで語り始めたからだ。そして、ゆったりと流れる時間の中で、新たなメンバーも含めてたくさんの方が文章を綴った。
 最初は、1日目の夜遅く書かれたE.Kさんの文章から。彼女は、7月に文章を綴り始めた方だ。この日、かたわらには、合宿に応援に来たOGのスタッフがいた。彼女は、とりわけE.Kさんと縁の深かった方だ。これまでのE.Kさんの文章を涙とともに読んできたという。文章は、その女性に向けて書かれ始めた。

○○ひさしぶりですね。○○さんからしてもらったことには、とてもかんしゃしています。きっといつか、かんしゃしたきもちをつたえたいとおもっていました。しにいつかしたいです。しをつくりたいです。きっといつかできるとおもいます。きっといつかつたえたいとおもいます。きっといつかしをつくります。きいてください。きっといつかしにします。

 そして、施設の生活に話が及ぶ。

ふくしえんのしょくいんにもつたえてほしいです、わたしがことばをしっていますと。きびしいです、しられていないと。しってほしいです。ちいさいことでもきいてほしいことがあります。じぶんのきもちをいっぱいつたえたいです。きもちをいっぱいわかってほしいです。

 次に話題は、来年の5月、青年学級のみんなと開く若葉とそよ風のハーモニーコンサートでも、発表しようと誘った。

わかそよ(コンサートのこと)でもきもちをじぶんのことばでつたえたいです。じぶんのきもちをきいてほしいです。きもちをきいてほしいけどいいほうほうはありますか。きもちをつたえるほうほうをかんがえたいです。

 詩という方法があるね、と答え、さっきこれから感謝の気持ちをこめた詩を作りたいと言っていたけど、もう作った詩はあるのと尋ねると、次の答えが返ってきた。

ある

 そして綴られた詩と、詩を作る時の気持ち…。

きたかぜに すばらしいみらいをきいてみよう
きぼうのかなたのきたのくにのかぜに
ひとりぼっちのだまったじぶんに
きたのくにのかぜにいつもきいている
じぶんのじかんに
きたのかぜにつらいきもちを
きたのかぜにじぶんのこえを
じぶんのじかんにちいさいときのちいさいねがいを
だまったままのいつもきいている
きたのかぜに
じぶんのじかんに
いつもいつも
きたのかぜにきいてみる

しをつくるのはたのしい。つらいきもちをじぶんでなぐさめることができるから。いつもつくっている。いつもいつもきびしいので、きぼうがわいてきます。

つらいときにきいてみよう きみのこころに
かなしいとき きみのこころに
つらいとき りかいしてみよう きみのこころに
すばらしいちかいをたててみよう じぶんのことばで
きっと きっと きぼうのにおいがするはずです。

きいてくれてありがとう。わかそよがたのしみです。きたいしています。

 ここで、信じてくれないかもしれない人たちの前で、ステージの上に出られるかと尋ねてみた。

でれます、きいてほしいから、じぶんのきもちを。いいみらいがひらけそうです。すばらしいみらいがひらけそうです。きたいでむねがふくらみます。うれしいです。

 そして、励ましの言葉をもらった。

しばたさんじゃないとできないとしても、いいことはいいのだから、きにせずにつよいきもちでがんばってください。にんげんだからきもちがなえることもあるとおもうけど、がんばってください。

 さらに、このブログのことに話が及んだ。

できるのそんなことが。ついにこえがとどくのですね。だしてほしいです。ちいさいときからいいことがすくなかったけど、やっときぼうがわいてきました。きぼうがわいてきたのに きいてくれるひとがすくないのがざんねんです。
 
 そして、今度は、しゃべれて普通に暮らしていた頃、宝塚ファンだったという彼女に、階名でメロディを綴れば作曲もできるかもしれないと伝え、何か階名で綴れる歌はあるかと聞いてみた。

できる。おぼえている。ついにきぼうがかなう。きたいしています。ちいさいときから、いいきょくのめろでぃをかいめいでうたっていましたから。
ドレミドレミソミレドレミレソソミソララソミミレレド(「チューリップ」)
きちんといつかかんがえておきます。じぶんのことばにじぶんでめろでぃをつけられたらうれしいです。

 時計は12時を回っていた。

ねます。はやくねるしゅうかんがついているのでねむいです。

 また、新しい夢がふくらんだ夜だった。
2008年12月11日 07時29分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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