ニックネーム:柴田保之
性別:男
年齢:56歳
障害の重い子どもとの関わりあいと障害者青年学級のスタッフとしての活動を行っています。連絡先は yshibata@kokugakuin.ac.jp です。

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2009年01月07日(水)
北風と希望の詩4編 その4
 小3の○○君の文章は、次のように始まった

かのうせいをしんじてくれてありがとうございます
ちいさいときからはなしたいとおもってきました
しんらいしていますおかあさんのことを
いいじぶんになりたいとおもいます
すなおなじぶんです
きもちをわかってくれないひとにたいしてもりかいしてくれるひととおなじようにすなおなきもちでせっしたいからです
きぼうがわいてきました
にんげんらしくいきていきたいとおもっていますからきもちをことばでいいたかった
にんげんだからいいたいことがいいたいです

 ここで、詩について、みんなと同じ問いを投げかける。もともとロマンチックな言い方を好んできた彼だから、確信をもって尋ねた。そして、次の詩が書かれた。


しろいきぼうのきたのかぜは
どうしてじぶんにかたりかけるのだろう
ちいさいぼくはちいさいころからひとりぼっちだったけど
きたかぜはいつもぼくにはなしかけてくれた
さびしいぼくはにんげんとしてうまれながら
きもちをことばにすることができず
にんげんらしいくらしができないけれど
ちいさいぼくにもきぼうがあることをおしえてくれた
きたかぜはしろいゆきとしろいきぼうをともなって
ぼくにむかってふいてくる
きたかぜはいつもいいきぼうをぼくにはこんでふいてくる。

 その後、お母さんから用意された質問にそれぞれ答えていった。その中のいくつかを抜き出しておく。


てれびはつまらないです
いいばんぐみはきたのくにからです
みてみたいです
おんがくはすきです
どらまはきらいです
いいのもありますがころしあいやけんかはきらいです
ひらいけんのおおきなふるどけいです
いいきょくはすきです
がっこうのきょくではかなしいねがいのうたがすきです
そつぎょうしきのうたです
きのうのじぶんにさようならというかしがでてくるうたです
きもちきいてもらいたいし じぶんのきもちがつたえられたらどんなにすばらしいでしょう
きもちをつたえることができるようになるのがゆめです

 質が高く、美しいものが好きだということがよくわかる。有名な「北の国から」のドラマは、実際には彼は見ていないそうなのだが、きっと、そのタイトルになみなみならぬ思いを感じるのだろう。
 まだ、パソコンは私としかできないが、途中、「あかさたな」と言いながら手を引きあって、簡単な気持ちをうまく聞き取ることができた。きっと彼のことをとてもかわいがっているおねえちゃんが、手を取って、気持ちを聞き出せる日も遠くないかもしれない。
2009年1月7日 00時50分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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北風と希望の詩4編 その3
 小6の○○さんは、まず、年頭のあいさつから始まり、気持ちを表現できるようになった喜びについて述べた。

あけましておめでとうございます
ねがっていましたきもちをことばでいえるようになることを
かあさんいつもありがとうございます
いつもはんせいしています
きもちがいえたらいいのだけどなかなかじぶんのきもちがいえないのできにしています
きぶんがかわりやすくていいこでないことがおおいので
きぶんがいいです いいたいことがいえて
いいたいことがいえてしあわせです
きっといつかいえるようになるとしんじていました
かなってうれしいです
きもちをきいてもらえてうれしい
ねがいがかなってうれしい

 そして、詩を作ったことがあるかと尋ねたところ、「ある」との返事。そして、次の詩が書かれた。

いいきぼうのきたかぜ
しろいゆきをつれてふいてきて
ちいさなわたしにしろいゆうきをくれた
しろいゆうきはちいさいわたしにきぼうをくれて
ちいさいわたしはきたかぜにむかってさけんで
たびびととすぎてきたきせつのはなしをした
しずかなさけびごえをあげてしまって
きがついたらみたこともないきさきがあらわれていった
ちいさいわたしはおどろいてきたかぜにしつもんした
きたかぜはしらないのですか
きたのくににあんなにさびしいひとたちがいることを
いいきたかぜはこたえた
きたのくにのきぼうはさびしさのきわみにあるひとたちがねがったきぼうです
だからほんとうのきぼうです
きたかぜはきぼうのきたかぜなのです
きたかぜにむかってきたのくにのきぼうをききながら
ちいさいわたしはきたのくにのきぼうに
きっといつかちいさいわたしのねがいがかなうことをいのった
にんげんはきたかぜにきぼうをしろいゆきとともにいただき
しろいゆうきをもらう

さむいのはいやだけどきたかぜはすきです

 そこで、先に来た高1と高3の女の子が書いた詩を聞かせた。

たくさんのともだちがおなじことをかんじているのでおどろきました
きたかぜにきぼうをかんじているのがわたしだけではないことがわかってうれしいです
いいしでした
いいことばでした
きぼうがわいてきました
きぼうがきたかぜによってはこばれてきたみたいです
うれしいです
じぶんのきもちがいえるようになってうれしいです
きぼうがわいてきました
ありがとうございます

 北の国の希望は寂しさのきわみにある人たちが願った希望だという。あどけない顔をした小6の少女から、寂しさのきわみという言葉がするりと出てくることに、驚きを禁じえないが、これが、彼女たちの体験した現実なのだろう。私たちは、この現実から決して目をそらせてはいけないことを痛感させられる。
 
2009年1月7日 00時50分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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北風と希望の詩4編 その2
 感情表現が大きな声や体の動きに出てしまうことで、なかなか言葉を綴る働きかけができずに、時間ばかりが過ぎてしまった○○さんは、今年の春高等部を卒業する。前回くらいから、ようやく、簡単な言葉を綴れるようになったので、今回は、一気に、文章に挑戦してみた。最初は、そのことをめぐる思いが続いた。

うれしいしんじられない 
じぶんのいいたいことがいいたかった
きぼうがわいてきました 
じぶんのきもちをいいたかった 
いいきもちです 
きいてもらいたいことがあります
きもちをきいてもらいたいけどちゅういばかりされてしまいます
みためではんだんされていやです
にんげんだからちゃんとかんがえています
いいすいっちですね
きいてもらえてうれしい
ちいさいころからのゆめでした きもちをことばでいえるようになることが
きぼうがわいてきました
いいちからでいいたいことがいえてびっくりしています
かあさんいしをきいてくれてありがたいです
ちいさいときはきもちをいえるようになるとおもっていたけど かないませんでした
やっといえるようになってきぼうがでてきました
いいじんせいにしたいです

 そして、そのまま、北風の話になっていく。

きのういいことがありました
きたかぜがにんたいしているわたしにきぼうをすてないようにしなさいといいました
いいきたかぜでした
きたかぜはきぼうのきたかぜです
きぼうをしんじていきるようににんげんにふいています
にんげんはいいゆめをみていたいとおもいますがしんじていればゆめがかなうことがわかりました
いいりそうのきたかぜでした
きっとちいさいときからふきつづけてくれたのでしょう
しんじつづけてよかったです
ふつうのひとはきたかぜをいやがりますがにんたいしてきたひとにはゆめをはこぶかぜです
きぼうのきたかぜはきたのくにからふいてきてきたのゆめをはこんできます

 その後、お父さんのことに話が及ぶ。

おとうさんにもかんしゃしています
いいおとうさんです
きのうもいいはなしをしてくれました
いいゆめをくれました
いいひとになりたいとおもいます
いいくらしがしたい

 話が一区切りついたあと、直前の高1の女の子が書いた詩を朗読したところ、次のような感想が書かれた。

きたかぜについておなじようなことをかんがえているとはおもいませんでした
いいしでしたね
いいちからがわいてきました
きのうのきたかぜにかんしゃします
いいちからをちからいっぱいもらいました
いいあかるいはじまりになりました
きぼうがわいてきました

 4月からは社会人として羽ばたく彼女。ここまで来るのにずいぶん時間がかかってしまったけれど、間に合って本当によかった。

2009年1月7日 00時36分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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北風と希望の詩4編 その1
 これまで、頬でスイッチを押すことで文字を綴ってきた○○さんだが、今回は、こちらがスイッチを頬に押したり離したりして、選択の時にふっと力が入ってスイッチが入りっぱなしになるというのを読み取るという方法で行うと、たくさん文字を綴ってもらうことができた。
 ○○さんは、かつて、春に、次のようなすてきな文章を綴ったことがある。

きにうつくしくはなのさくみち
けいかいなうくれれきこえ
ほこうしゃこみあゆむ はある(=春)

 そんな○○さんだから、きっと詩を作っているだろうと、尋ねてみた。すると、次の詩をさらさらと綴った。テーマは、もう、数多くの人たちが表現してきた、北風と希望だった。

きたかぜにききたいことがあります
どうしててまねきみせてにんげんにふいてくるのですか
きぼうはきたのくににあるのですか
しらないせかいのきぼうをきたのくにからはこんできて
にんげんにしあわせをくださいます
きたかぜのじかんがみらいのきぼうにつながって
きっとしあわせなかんしゃをわたしにくださいます
さいはてのくにからふくきたかぜは
しろいきぼうのかぜです
いいきぼうのかぜです
しろいゆきとともにふいてきて
きぼうをにんげんにくださいます。

 うなずくことができる○○さんは、詩を綴りながら、深く満足そうなうなずきを何度も繰り返していた。
 そして、家でワープロの練習として、書いてみたい勉強はどんなものかなと尋ねると、

きれいなしをかいてみたい
くがみじかいし

と答えた。これから、すてきな短歌や俳句を、いっしょに書き写しながら、表現をいっそう磨いていくことになるだろう。
 そして、最後に、ゆめとして、次の一文を書いた。

じぶんでいきていきたいとおもうのでちからがほしいです だれかの

 高校1年の○○さんは、2009年の新しい年を、素敵な詩と夢とで始めることができた。
2009年1月7日 00時23分 | 記事へ | コメント(0) | トラックバック(0) |
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